昔の医療器具
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権力者の主治医には
医術以外に相当な技量が要求される

『主治医だけが知る権力者 : 病、ストレス、薬物依存と権力の闇』書影
『主治医だけが知る権力者 : 病、ストレス、薬物依存と権力の闇』 タニア・クラスニアンスキ著 川口明百美翻訳 原書房 2400円+税

 本書『主治医だけが知る権力者 : 病、ストレス、薬物依存と権力の闇』は国家元首の主治医たちをめぐるノンフィクションである。もちろん、主治医についてだけでなく、元首たちの病気や性癖、投薬についても詳しく描かれている。登場する元首たちは並みの権力者ではない。ヒトラー、チャーチル、ペタン、フランコ、ムッソリーニ、ケネディー、スターリン、毛沢東。それぞれの身体状況とそれに対する治療が政治に大きな影響を与えていた。そして、主治医たちは大きな役割を担っていたのである。

 文字通り、元首の主治医は裸の権力者を見続ける。そのためには、まず元首に気に入られなければならない。その上、お気に召すような治療をしなければならない。一方で、気にそまぬアドバイスをしなければならないこともあれば、病状をひた隠しにせねばならないこともある。権力者の主治医には、医術以外に相当な技量が要求される。

 主治医によっては虎の威を借りて権力をふるおうとする者もいる。たとえそのようなことがなくとも、周囲からの圧力は強烈だ。権力者の側近たちからウソつきと呼ばれ、無能と蔑まれ、当然のように嫌われていく。最後には権力者本人にも疎まれ、嫌われ、捨てられてしまうこともある。どうにも割にあわない仕事である。しかし、権力者に任命されたら断るわけにはいかない。断ればすべてを失うどころか、時には死を招きかねないのだから。