「俺、先輩たちに無視されているのかな?」

 自席に着くと、B課長はAの机に山ほどの書類を積み上げ、さらに分厚いマニュアルを渡して言った。

「この書類を種別に整理し、書庫に格納してください。作業方法はこのマニュアルに書いてあるからよく読んで進めるように。私はこれから会議があるため失礼するよ」

 Aは早速マニュアルを読み作業を始めた。書類の整理は簡単にできたが、書庫の場所がわからない。そこで隣席の先輩に尋ねた。

「あの~、この書類はどこにしまったらいいでしょうか?」

 すると、先輩は、目前のパソコン画面を眺めたまま、つっけんどんに「あっち」と答えた。

「あっちってどこですか?」
「だから、あっち」

 他の先輩にも聞いても皆、画一的な返答だった。5人目に聞いてようやく場所がわかった。

 ランチタイムになると、先輩たちは外食するか、弁当持参で休憩室へ行くため、部屋はもぬけの殻だった。Aは誰にも誘ってもらえず、コンビニで弁当を買って自分の机で食べた。そして18時になると社員はさっさと席を立ち、黙って退社していく。10分後には誰もいなくなり、Aだけがポツンと残された。

誰にも話しかけられない
職場の雰囲気に幻滅する

 Aが無視されているわけではない。職場全体が仕事の話以外、会話がほとんどないのだ。しかも仕事の話も必要最低限で、「あっち」「そっち」的なものばかり。20人いる課員はAを除き配属5年以上のベテランで、仕事に慣れていることと、1人ずつ独立した担当を持っているため、業務上密なコミュニケーションは必要なかった。

 誰にも話しかけられず、仕事のことを聞いてもつれなくされるので、日が経つにつれAはますます気が滅入っていった。しかも頼みのB課長はほとんど不在、同期は女性なので、相談するのは気が引けてしまう。やがてAは会社に行くのが嫌になり、「退職」を考えるようになった。