米国発の“不況の波”は、すでに中国沿岸部には多大な影響を及ぼしているが、内陸部ではそれほどでもないらしい。北京と成都で消費市場を開拓し、急成長を遂げているイトーヨーカ堂の取締役中国総代表で、最近『人生、すべて当たりくじ!』(PHP研究所)を著した塙昭彦氏に、中国市場の動向と中国ビジネスの要諦を聞いた。
塙昭彦(はなわ あきひこ) セブン&アイ・フードシステムズ代表取締役社長。イトーヨーカ堂取締役中国総代表。1967年イトーヨーカ堂入社。営業本部長などを経て、1996年に専務取締役中国室長として北京に赴任し、今日に至る。現在、セブン&アイグループの外食事業の代表を兼務しており、1年のうち4分の3を日本、4分の1を中国で過ごしている。Photo by Kiyoshi Takimoto |
─世界不況の影響は、中国の消費に及んでいますか。
中国市場は、全国一律には語れません。消費動向も地域によってまったく異なります。世界不況の影響について言えば、沿岸部の広州、東完、上海などの経済には大ダメージで、消費も落ち込んでいるようです。
当社は、北京でスーパーマーケット、成都で百貨店を展開しています。北京には多少影響が出ていますが、成都では変化はほとんどありません。成都での売上高は今日まで一貫して前年比二ケタ成長、それも、かなり高い伸び率を維持しています。
経営者や上級管理職層には株式投資をしていて、市況暴落で損失を被った人もいるようですが、それは一部で、私たちの店のお客様層にはそうした面での影響もないようです。
─北京店の平均的な顧客層は、どういうものですか。
アッパーミドルです。月収2000元(約3万円)の夫婦共稼ぎで、家計で見れば4000元(約6万円)という顧客層が厚くなっています。子供は一人で、大事に育てられています。
健康志向で、多少割高でも、体に良い食材を選ぶという人が多く、青果物の売上高の50%以上が有機・無農薬ものになっています。
─2008年の農薬入り冷凍ギョーザ事件やメラミン入り粉ミルク事件などで、中国でも「食の安全志向」が高まったと聞きますが。
そうですね。事件を契機とする安全志向の高まりは、当社にとって“追い風”になった面はあります。アサヒビールさんの中国法人が生産している牛乳の売り上げが伸びました。日本での販売価格よりも高いのに(1000ccパックが21.5元=約320円)、よく売れています。
当社はトレーサビリティにも注力していて、食材の商品についているバーコードを店内の端末にかざすと、例えば野菜なら、「いつ、誰がタネを蒔いたのか。どういう肥料をやったのか。農薬は使ったのかどうか」などの生産履歴がモニター画面に表示されるシステムを導入しています。
青果物では全体の3分の1が、肉類はほぼ全部が、生産履歴を確認できるようになっています。