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インキュベーションの虚と実

なぜスゴそうな人も大ゴケするのか?
テーマで間違うスタートアップ

本荘修二 [新事業コンサルタント]
【第5回】 2012年6月18日
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 失敗の理由は各社各様だが、経歴ピカピカでスゴそうな起業家でもコケた例に共通してよくみられるのは、種となるアイデア/技術から一足飛びに事業化した点だ。拙速ゆえに失敗し、軌道修正を余儀なくされる。そのときに失われる時間と経営資源は大きい。株主からの不審も渦巻く。

 なお、どんな優秀な起業家でも最初のアイデアでそのまま突破できる確率が低いのは米国でも同じだ。米国でトップクラスのベンチャー・キャピタルであるKPCBが投資したスタートアップの3分の2が、投資時のビジネスプランAとは異なるプランBに(あるいは更に)転換している(参考書籍「プランB」)。

 では、より的確なテーマ設定のためには、どうすればいいのか。それがOpportunity Recognition(以降ORと記す)=事業機会の特定、つまり現実のチャンスをとらえることだ。「よいアイデアは、実現性のある事業機会へと形成されなければならない」と米国のベンチャー研究者は指摘する。

 また、フェラーリなどでカー・デザインを手掛けた奥山清行氏は、「アイデアは素人が勝る。プロは組み合わせ。仕事としておびただしい数の組み合わせを経験しているから、そこが違う」と言う。これはクルマのデザインに限らないイノベーションの法則のようなものだ。つまり、種となる着想だけでは価値はなく、それをプロダクトやビジネスといった最終形に組み上げていく実力で差がつくということだ。

 よいアイデアも、そのままでは価値はなく、事業機会をとらえたビジネス・コンセプトに練り上げねばならない。そして、練り上げる過程で、顧客やユーザー、事業パートナーなどエコシステム=生態系からのフィードバックが鍵となる。近年ORは、欧米で最も注目されている研究テーマの一つとなっている。こうした背景があり、スタートアップ・メトリックスやリーン・スタートアップ、顧客開発など、OR実践のための手法が米国で次々に開発されているのだ。

起業家は顧客/ユーザーのことを
意外なほど分かっていない

 「自分は自分のことを他人ほど分かっていない」とは大阪大学の石黒浩教授の言葉だが、これを腹から分かっている起業家は少ない。自分こそがこのスタートアップを、このテーマを最もよく分かっていると思いがちだ。

 したがって、Yコンビネーターはスタートアップに「ユーザーの声を聴け」と指導し、500 Startupは思い込みでなくデータ重視で科学的にプロダクトをデザインしろと言う。また「起業家に告ぐ、ユーザビリティテストを使え|IDEA*IDEA」といったブログが書かれる。

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本荘修二

新事業を中心に、日米の大企業・ベンチャー・投資家等のアドバイザーを務める。多摩大学(MBA)客員教授。Net Service Ventures、500 Startups、Founder Institute、始動Next Innovator、福岡県他の起業家メンター。BCG東京、米CSC、CSK/セガ・グループ大川会長付、投資育成会社General Atlantic日本代表などを経て、現在に至る。「エコシステム・マーケティング」など著書多数。訳書に『ザッポス伝説』(ダイヤモンド社))、連載に「インキュベーションの虚と実」「垣根を超える力」などがある。


インキュベーションの虚と実

今、アメリカでは“スタートアップ”と呼ばれる、ベンチャー企業が次々と生まれている。なぜなら、そうした勢いある起業家たちを育てる土壌が整っており、インキュベーターも多く、なにより、チャレンジを支援する仕組みが存在するからだ。一方の日本はどうなのだろうか。日米のベンチャー界の環境の変化や最新のトレンドについて、25年にわたってベンチャー界に身を置いてきた本荘修二氏が解説する。また日本でベンチャーが育ちにくいと言われる背景を明らかにし、改善するための処方箋も提示する。

「インキュベーションの虚と実」

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