日本人個人が設立した投資銀行として初めて米国証券取引委員会に登録された、ロバーツ・ミタニ・LLCを起業、「強欲資本主義」と決別し、真のイノベーターを支援するという投資銀行家としての志を貫く神谷秀樹氏が、『アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?』を書評。イスラエルでは、なぜイノベーションが次々に起こるのか? そして「失われた20年」の停滞下にある日本の活路は?
技術革新に関わる仕事をするなら、イスラエルとの付き合いは必須
本書の原題は「スタートアップ・ネイション」、言い換えれば「起業大国・イスラエル」のお話である。何故その書評を書くという依頼が小職にきたのか? それは、私が20年前に創業した「ロバーツ・ミタニ・LLC」というニューヨークの投資銀行が、技術革新に挑むベンチャー企業の資金調達、戦略的提携、会社の買収、売却などを扱うことを生業としており、扱う技術の約半分がイスラエル産、また一緒に仕事をするパートナーも顧客も約半分がユダヤ人(アメリカ生まれとイスラエル生まれがいる)で、イスラエルとは極めて親しい関係にあるからだろう。世界を相手にし、技術革新に関する仕事をする以上、イスラエルという国、ユダヤ人と呼ばれる人々とのお付き合いは、必要不可欠なのである。
本書に紹介されているが、「国民一人あたりのベンチャー・キャピタル投資額」、「アメリカ以外の国籍のナスダック上場企業数」、「民間研究開発投資の対GDP比率」において、「イスラエルは世界ダントツ」だと言えば、皆様も興味を持たれるに相違ない。また多くの人にとっては、これらの統計は驚きであることだろう。
しかし、日本とイスラエルの関係は「薄い」。お隣の韓国からは、テル・アビブに週2本直行便が飛んでいる。日本からの直行便はない。イスラエル政府は世界の先進国のほとんどと技術交流に関する協力協定を締結しているが、日本だけがリストにない。テル・アビブで開催されるバイオのコンファレンスなどで聞こえてくる外国語は、英語に中国語。日本人は両手に満たない、「ほんの数名」しか来ていない。イランとの戦争が懸念される現在、多くの日本企業はイスラエルへの出張を禁止し、駐在員は引き上げさせているとも聞く。
日本人の民間企業人でイスラエルを担当している人にお話を伺うと、「なかなか入れない社会」という感想が返ってくることが多い。本書にも紹介されているイスラエル人の議論好きには、辟易するばかりでついていけないという方も多いだろう。本書はそんな「馴染みの薄い国」を知るのに、もっとも適している。