手書きには精神の治癒効果がある

 自分の経験を総合的にまとめて考えられるからこそ、世界を認識し、世界と交流することができる。だから「日記をつける」いう行為は、トラウマや精神疾患に苦しむ人に対して治療効果のある強力なツールとなることが証明されている。

 たとえば日記で表現豊かに長い文章を書けば、自分のつらい体験を外にだすことができる。認知行動療法(CBT)では、侵入してくる思考のせいで強迫観念に駆られている患者の治療にあたり、脚本を利用する場合がある。つらい思いを、短いパラグラフで詳しく綴ってもらうのだ。

 その思考が当人の頭をぎゅっと締めつける力が弱まるまで、脚本を何度も書き直してもらう。患者はやがて、その強迫観念と距離を置けるようになる──困難な状況に直面している最中には、なかなかできないことだ。

 とりわけ大切にしている思い出を保管するうえでも、手書きは役に立つ。僕はこれまで、バレットジャーナルへの感謝のメールをたくさん頂戴してきた。差出人の年齢に関係なく、「私は記憶力が悪いのですが、バレットジャーナルのおかげで情報を整理できるようになりました」という内容のものが多かった。

 バレットジャーナル・ユーザーのブリジット・ブラッドリー(51歳)は、いまでは「3ヵ月前の天候、先月ジムに通った回数、レストランの予約を(メールで)したこと、7月の休暇の予定などをすべて覚えておけるようになりましたし、旅先にもっていくもののリストを(半年も前に!)つくって、時間に余裕をもって必要なものを買いにいけるようになりました」と、報告してくれた。

 同様に大勢の人が、トラウマによって、あるいは治療によって低下した記憶力が「バレットジャーナルのおかげで改善されました」という報告を寄せてくれた。

 ある友人から、こう言われたことがある。「長い道のりが、結局は近道だ」と。「コピー・アンド・ペースト」の世界ではスピードばかりが礼賛され、僕たちはともすれば「便利なものこそ効率がいい」と誤解してしまう。

 ところが近道ばかりしていると、ゆっくりと歩み、考え事をする機会が犠牲になる。手書きという行為は、一見、ノスタルジックで時代遅れに思えるけれど、ゆっくりと考え事をする機会を取り戻してくれるのだ。

 手紙をしたためている最中は、ごく自然に騒音からシグナルだけを選びとって聴いている。真の効率のよさとは、スピードが速いことじゃない。本当に大切なこと、大切な人と、もっと時間をすごすことだ。突き詰めて考えれば、バレットジャーナル・メソッドはそのためにあるといっても過言ではない。