「決定すべきこと」が多いと、よい決定をするのがむずかしくなる。スティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグがワンパターンの服をユニフォームのように着ていたのも、日々の生活における選択肢の数を減らそうとしていたから。
しかし、私たちは日々多くの「やるべきこと」に取り囲まれている。リモートワークが一般化した今、頭の中はごちゃごちゃになりがちだ。それを解消するためには、まず思考をすべて頭の外に出すこと。「思考の目録」を書き出して、客観的に眺め自問することだ。
本連載では、世界中で話題のノート術「バレット・ジャーナル」の発案者であるライダー・キャロル氏が書き下ろした初の公式ガイド『バレットジャーナル 人生を変えるノート術』から本文の一部を抜粋して特別公開する。同書は世界29カ国でベストセラーとなり、日本でも紙電子合わせて5万部を突破している。
(本記事は2019年5月24日に公開された記事を再掲載したものです)

リモートワークでぐちゃぐちゃ!頭の中の整理する「思考の目録」の作り方Photo: Adobe Stock
役に立つと思えないもの、あるいは美しいと思えないものは、いっさい自宅に置かないことだ。
──ウィリアム・モリス(イギリスの詩人・工芸美術家)

「忙しい」とは、
することが多すぎて機能できない状態

リモートワークでぐちゃぐちゃ!頭の中の整理する「思考の目録」の作り方ライダー・キャロル(Ryder Carroll)
バレットジャーナルの発案者。デジタルプロダクト・デザイナー
ニューヨークのデザイン会社でアプリやゲームなどのデジタルコンテンツの開発に携わり、これまでアディダスやアメリカン・エキスプレス、タルボットなどのデザインに関わる。バレットジャーナルは、デジタル世代のための人生を変えるアナログ・メソッドとして注目を集め、ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、ファスト・カンパニー、LAタイムズ、BBC、ブルームバーグなど多くのメディアで紹介。またたく間に世界的なブームとなる。初めての公式ガイドとなる本書は、アメリカで発売後ベストセラーとなり、世界29か国で刊行される。
著者公式サイト
http://www.rydercarroll.com/
バレットジャーナル公式サイト
https://bulletjournal.com/

 さまざまな研究によれば、人は1日に5~7万回、思考をしているという(*1)。その思考が1回につき1個の単語で成り立っていると見なせば、僕たちは頭のなかで1日に1冊の書籍の内容と同じくらいの思考をしている計算になる。たった1日で、だ。

 ところが書籍とは違い、僕たちの思考はきちんと構成されていない。ましな日でも、ぼんやりと筋がある程度。つまり頭のなかでは、常に脳細胞が思考を整理しようと躍起になっているのだ。

 ええと、なにをすればいいんだろう? 最初にどこに手をつければいいんだっけ? 途中で筋道がわからなくなったり、同時に多くの物事に手をだしてしまい、どうでもいいことに注意を向け、一点に集中できなくなったりすることも多い。

 この状態を、僕たちはたいてい「忙しい」と表現する。でも忙しいからといって、生産的であるとはかぎらない。

「忙しい」という表現は、たいてい「することが多すぎてうまく機能できない状態」にあることを指す暗号だ。つまり、なにを言いたいかって? 僕たちに時間がないのは、多くの物事に同時に取り組んでいるからであって、それではうまくいかないのがオチだってことだ。

 この現象は21世紀に特有の問題じゃないけれど、テクノロジーのおかげで指先ひとつで無数の選択ができるようになってから急速に悪化している。

 いま、なにをすべきなんだろう? パソコンで書類を作成する? メッセージを送る? 電話をかける? メールをする? ブログを更新する? ツイッターをする? テレビ電話で話す? それともデジタル機器に大声で呼びかけて用事をこなしてもらう? これを全部する必要があるのなら、どの順番ですればいい?(ああ、それに用事に着手する前に、まずアップグレードして、アップデートして、再起動して、ログインして、本人である認証を得て、パスワードをリセットして、閲覧履歴を消去しなくちゃ。だから、いざ仕事を始めようとすると、なにをするつもりだったのか忘れてしまう……ええと、なにをするんだっけ?)

 無限に選択肢が与えられている状態は、いわば諸刃の剣だ。「これを選択しよう」と決断をくだすたびに、あなたは集中しなければならない。そして集中するには、時間とエネルギーを投資しなければならない。時間とエネルギーは有限の資源だから、どちらもきわめて貴重である。

バフェットの「人生リスト」のつくり方

 歴史上、もっとも成功した投資家のひとりであるウォーレン・バフェットは、信頼の置ける専属パイロットのマイク・フリントから、人生の長期計画について相談されたとき、「きみのキャリアにおける目標のトップ25を、リストにして書きだしなさい」と言った。

 フリントがリストをつくると、「そのうちのトップ5を丸で囲みなさい」と助言した。フリントは指示に従い、トップ5の項目を丸で囲んだあと、バフェットにこう言った。

「たしかにこのトップ5は、最優先で取り組みたい課題ではありますが、残りの20の項目はどれも僅差で2位につけています。自分にとっては、やはり大切なことなのです。ですから時間を見つけて、適宜、取り組んでいくつもりです。いますぐ、どうしても達成したいことではありませんが、やはり努力は続けていくつもりです」

 すると、バフェットがこう断言した。

「いや、それは誤解だ。丸で囲まなかった項目には、決して着手してはならない。きみがトップ5に選んだ項目をすべて成功させるまでは、絶対に注意を向けてはならんのだよ(*2)」

「ヴァニティ・フェア」に掲載されたインタビュー記事で、バラク・オバマ元大統領はこう述べている。

「私がグレーかブルーのスーツしか着ないのは、決断をくだす項目を減らしたいからだ。食べ物や着る物のことで、頭を使いたくない。ほかにも決断しなければならないことが山ほどあるからね(*3)」

 同様のことは、ほかのリーダーにもあてはまる。フェイスブックの創業者マーク・ザッカーバーグは、たいていグレーのパーカーかTシャツを着ているし、アップルの創業者スティーブ・ジョブズは、かの有名な黒いタートルネックとジーンズをユニフォームのように愛用していた。

 複数の選択肢を秤にかける行為がどれほど脳に負担をかけるかを強く意識していたからこそ、日々の生活における選択肢の数をできるだけ減らしていたのだ。

(注)
*1 Cyndi Dale, Energetic Boundaries: How to Stay Protected and Connected in Work, Love, and Life (Boulder, CO: Sounds True, Inc., 2011).
*2 Jory MacKay, “This Brilliant Strategy Used by Warren Buffett Will Help You Prioritize Time,” Inc., November 15, 2017,.
https://www.inc.com/jory-mackay/warren-buffetts-personal-pilot-reveals-billionaires-brilliant-method-for-prioritizing.html.
*3 Michael Lewis, “Obama’s Way,” Vanity Fair, October 2012, https://www.vanityfair.com/news/2012/10/michael-lewis-profile-barack-obama.