◆名居酒屋巡り体験記
◇能代の「酒どこ べらぼう」

 ここからは、居酒屋巡りの旅における著者の実体験を、いくつか紹介していく。

 まずは秋田県能代(のしろ)市の「酒どこ べらぼう」だ。能代は秋田杉を擁する林業が盛んで、製材、銘木、建具、酒・醤油などの樽業者が多数存在していた地である。店に入ると、カウンターに板張り座敷の造りが目に入る。板張りは秋田の居酒屋の基本だ。馴染みの店でもあるため、著者は「今日のうまいもの」をオーダーした。「八森の岩牡蠣」「久六島のサザエ」「豚の軟骨」である。お酒は、当店ブランド特別純米の「うぼらべ」にした。なお、だらだら長く飲むのが伝統の秋田の酒は、食中酒として作られている。

「八森の岩牡蠣」は、秋田美人らしい色気を放っており、秋田の酒にぴったりだ。久六爺さんが見つけてその名になったという「久六島のサザエ」は、しなやかできれいな味。「豚の軟骨」は、鍛冶屋に頼んで作ったという専用金槌で軟骨を念入りに叩き、黒胡椒で焼いたものだ。コリコリした噛みごたえが楽しめる。

 ただし、秋田といえば比内地鶏。著者はメインに「比内地鶏のだまこ餅鍋」をオーダーした。だまことは、わかりやすく言えばきりたんぽの団子版だ。これに野芹(のぜり)、舞茸、これまた秋田名物の蓴菜(じゅんさい)を入れてもらったら、緑がとても鮮やかであった。

◇会津の「料理居酒や 鳥益」

 つづいては、会津の「料理居酒や 鳥益」。この店で目がいくのは、ご主人の手作りによる看板である。玄関周辺には、鉄鋲打ちの大額一枚に一字ずつ金文字で彫り込まれた店名の額が飾られている。店内の至るところに、巨鼻の赤天狗面や腰つき色っぽい招き猫など、迫力に満ちた時代物古物があった。

 見事な造りの店内は、古物商資格を持つこの店のご主人によってしつらえられたものだ。なんと富山や新潟の山奥にまで、骨董を集めに行ったほどの凝りよう。店の蔵戸の造り込みからインテリア設計、看板、古物の配置に至るまで、これ以上ないセンスの良さを感じさせられた。