A社長「今すぐ?そりゃ無茶だよ。まだ配属されたばかりじゃないか。まずは今の部署でしっかり経験を積んでから、異動の希望を出すようにしたらどうかな」
Dさん「しばらくは営業をやらないといけないっていうことですか?」
A社長「営業は利益を生む最前線の、会社の存続に関わる重要な仕事なんだよ」
Dさん「採用面接で『何をやりたいか?』って聞かれた時、僕は『マーケティングをやりたい』って答えたはずです。これじゃ話が違います。異動は無理ですか?」
A社長「配属が決まってまだ1ヵ月も経ってないからね」
Dさん「では、辞めさせてもらいます」

 A社長はDさんの毅然とした態度に唖然として、すぐに言葉が出なかった。もちろん慰留を試みたが、本人の辞める意思が思った以上に固かった。

(2)Eさんの場合
A社長「何か問題があるのかな?」
Eさん「なぜ僕が営業なんですか?」
A社長「ウチみたいな会社にとって最も重要な仕事を、まずは経験してもらいたいと思ってね」
Eさん「でも、営業は向かないと思って、学生の頃から経理志望と決めていたんです」
A社長「実際にしばらくやらないと、本当に向くかどうか、わからないんじゃないかな」
Eさん「向かないことは、自分が一番よく知ってます。僕、人と関わるのが苦手なんです」
A社長「そうか、人と関わるのが苦手か…」
Eさん「そうなんです。だから経理に異動させてください」
A社長「苦手意識を克服するために営業をやることで、人と関わるのに少しずつ慣れると思うよ」
Eさん「人と関わる仕事は本当に無理なんです。取引先に会いに行くって思うだけで疲れちゃうんです」
A社長「そのうち慣れるよ。いずれ経理を希望する異動願いを出すとして、今は営業で頑張ってくれないかな」
Eさん「わかりました…」

 Eさんはそう言ったものの、結局、しばらくして辞めたのである。

 A社長は、昨年のことがあったため、今回は慎重に対処しようと、私に相談してきたのだった。そこで次のような社会的背景を説明するとともに、対処法についてアドバイスした。

「やりたい仕事」病が
蔓延する社会的背景とは…

 このように配属された部署の仕事が「自分が希望するものと違う」「やりたい仕事と違う」と言って、新人がいきなり異動を迫るというのは、かつてはあり得ないことだった。だが、最近は多くの職場で見られる現象になっている。

 その背景には、欧米流に職種で採用する外資系の影響もあるが、ニート数の高止まりや若者の早期離職などの問題に対処するため、学生時代に受けてきたキャリア教育の影響が何よりも大きい。