「トイレ内にストップウォッチを置いて時間を計るのはどうか」
「一定時間座っていたら便座が振動する」

 など、さまざまな対策を考えてはみたが、罰を与えるような形で取り締まるのはできれば避けたい。マナーとして自分の意思で長居をやめてもらうのが理想だからだ。

 そこで、実現可能な案として、

「一定時間を経過したら個室トイレの利用者にアラートする」

 というアイデアが出た。

 そして、一定時間が経過すると疑似的に扉をノックする「疑似ノック」装置を設置するのが良いのでは、という意見にまとまった。しかし、探してみても「疑似ノック」が可能な装置はその時点では市場に存在しないことが判明。開発には少なくとも200万~300万円のコストが発生するとわかった。「そもそも『ノックしたら早く出てくる』という仮説への確証が持てない段階で投資すべきか」を再度検討した結果、この案は断念した。

 そんな中、もう1つ出てきた案はこれだった。

「待っている(並んだ)人がチャイムを鳴らして、個室トイレ利用者に混雑状況を知らせる」

 これは総務部員の案だったが、苦い反応を示したのが、実は佐野室長だった。

「そんなボタン、誰も押さないだろうと思ったんです。だって、『私のおなかは限界だ!』と宣言するようなもんじゃないですか(笑)」

 とはいえ、とりあえず、やってみなければわからない。この仮説を超える代案もない。「うまくいかない理由」を挙げて何もしないのは一番意味がない選択だ。

 調べてみると、1セット934円のワイヤレスチャイムが市販されており、男女トイレの全個室に配備しても約3万円程度の投資で済むことがわかった。

 実際に効果が出るかどうかはわからなかったが、まずはボタンが押されるかどうかを確かめてみようと、フィジビリ(リクルート用語で、「とりあえずやってみる実験」のこと)を開始することになった。