レビュー
「メメント・モリ(死を思え)」という言葉がある。
歴史的にみると、キリスト教以前においては「どうせ明日死ぬかもしれないのだから、いまを楽しむべきだ」という意味だったのが、キリスト教以後では「現世ではなく来世にこそ思いを馳せよ」というニュアンスに変化したらしい。いずれにせよここから言えるのは、意思決定するうえで「死」が大きな役割を持っているということ、そしてわざわざ口に出して自戒しなければ、「死」という運命はしばしば忘れられてしまうということだ。
ただでさえ長寿化が進行し、自らの「寿命」が遠のいていっている時代である。このまま医療分野が発展していけば、日常で「死」を意識する機会はますます減っていくだろう。そうしたなかで「死の本質」を哲学的に語った本書『「死」とは何か イェール大学で23年連続の人気講義』が人気を博していることは注目に値する。宗教的な教えに頼らず、あくまで論理的思考を用いて「死」を捉えていこうとするとき、そこに何が立ち現れてくるのか。