野村監督
今シーズンでの退任が決まった野村監督。退任を惜しむファンの声は多い。

 10月11日、楽天イーグルスが圧倒的な強さでクライマックスシリーズ第2ステージへの進出を決めた。レギュラーシーズンでの成績は77勝66敗1分けで堂々の2位。開幕前、この快進撃を誰が予想しただろうか。楽天はなぜ強くなったのか。今シーズンの闘いぶりを野村監督や選手たちに改めて聞くとともに、4年間にわたり蓄積してきた取材を徹底的に見つめ直した。

楽天の「考える野球」とは?

 今年の楽天の強さの秘密は、野村監督が唱え続けてきた「考える野球」にあった。それは、選手1人1人が考えて動く、「そつのない野球」という形で現れている。クライマックスシリーズ第1ステージでみせた抜け目のないプレー。レフト前へのヒットを打った鉄平選手が守備の隙を突き、すかさず2塁へ。さらに、ランナー3塁2塁の場面、ライトフライでタッチアップで得点を挙げると同時に、2塁ランナーも3塁へ進んだ。

 こうしたプレーを生んでいるのが、選手1人1人の考え方の変化だ。打率3割2分7厘で首位打者に輝いた、3番バッターの鉄平選手が、「今シーズン、会心の打撃」と語るシーンがある。9月27日のソフトバンク戦、同点で迎えた9回、ノーアウトランナー2塁、一打サヨナラの場面で放った“1塁ゴロ”だ。なぜ、なんでもない1塁ゴロが会心の打撃なのか。

 去年のソフトバンク戦。ノーアウトでランナーが2塁にいるという同じような場面。このとき、3塁方向にボールを打つと、3塁との距離が近いため、2塁ランナーは進塁しにくくなる。反対に1塁方向にゴロを打てば、3塁とボールの距離は遠く進塁できる確率が高まる。しかし。初球をあっさりと流し、レフトフライ。進塁させることができなかった。当時、野村監督は「状況に応じたバッティングが出来るようになること」が鉄平選手の課題だと考えていた。

 高校時代、「九州のイチロー」と呼ばれたほど、高い打撃技術を持つ鉄平選手。これまでチームの成績は二の次、プロで生き残るには、自らの成績が第一だと信じてきた。しかし上位争いを繰り広げる中で、野村監督が言う「状況に応じたバッティング」とは何かを考え続けた。それが、あの会心の打撃として結実した。ノーアウトランナー2塁、去年なら迷わずヒット狙っていた。引っ張るのが難しい外角への変化球を、ゴロで一塁へ。ランナーを進めることに成功した。当時首位打者争いをしていた状況の中でも、打率を下げてでもランナーを進めるという選択に、全く迷いはなかったという。

 さらに、野村監督の想像をこえるプレーをする選手もあらわれた。チームの盗塁王、渡辺直人選手。ヒットで出塁した渡辺選手は、「まずは様子を見ろ」というベンチからの指示を受け、逆に自らサインを出し、盗塁できると主張したのだ。結果は言葉通り成功。ベンチにいるときから、相手投手のモーションを観察。成功するという確信を得ていたのだ。今シーズンのチームの躍進を、渡辺選手は「自分で考えられる選手が増えたから、今年の順位につながっている」と分析、一方野村監督も「フォアザチームの姿勢が、でてきているということは喜ばしいことだと思います。なんのために野球をやっているのかっていうことがだんだんわかってきている」と手応えを感じていた。

若きエース 田中との対話

田中将大
壁を乗り越え、名実ともに「楽天のエース」に成長した田中将大投手

 3年前、ドラフト1位で入団した田中投手。野村監督は、球界を代表するピッチャーになれると期待を寄せていた。その期待通り、田中投手は1年目11勝をあげ、新人王を獲得。野村監督は田中投手をほめ続けた。これは厳しく批判して反発心をあおる、これまでのやり方とはまったく異なる接し方だった。