「老後に公的年金以外に2000万円以上が必要」と書かれた金融庁の報告書が大炎上している。しかし、そもそも「年金だけで老後は安泰ではない」ことは30年以上も前から常識だったはず。一体いつの間に、「年金だけで死ぬまで安心」と信じる日本人が増えたのか?過去をたどると、小泉政権時代の「年金100年安心プラン」に行きつく。(ノンフィクションライター 窪田順生)
「年金だけで死ぬまで安心」と
思っていた日本人は一定数いる
財布のヒモが堅い日本人をちょっぴりビビらせて、「つみたてNISA」などにカネをつぎ込ませたかっただけなのに、なぜ「選挙の争点」だとか「国家的詐欺」なんて感じで大騒ぎになってしまうのか、と金融庁も頭を抱えているかもしれない。
連日のようにマスコミと野党がうれしそうに取り上げている、「老後2000万不足」問題のことだ。
既に多くの専門家が指摘しているように、これは、貯蓄・退職金ゼロで、定年退職からの30年を年金オンリーで遊んで暮らそう、というかなりポジティブシンキングなご夫婦をモデルケースした「恣意的な試算」である。
要するに、金融業界関係者が多く名を連ねる有識者会議「市場ワーキング・グループ」の皆さんが、「とにかく日本人はタンス預金じゃなくて投資にカネを回せ」という熱い思いを強く出しすぎてしまったせいで、世論をミスリードしてしまったのだ。
その一方で、今回の問題は、もうひとつ別の「ミスリード」も浮かび上がらせたという点においては、極めて大きな意味があったと思っている。それは、「年金だけで死ぬまで遊んで暮らせる」というミスリードだ。
「老後2000万不足」報告書を受け、「聞いていないよォ!」とダチョウ倶楽部のように怒っている方たちや、「びっくりした」「100年安心詐欺だ」「選挙の争点にする」とキレている立憲民主党の辻元清美さんなどをご覧になればわかるように、世の中には、「年金だけあれば貯蓄ゼロでも死ぬまで安心」と思い込んでいた方が一定数いらっしゃる。
もちろん、現実はそんなに甘くない。ネットの経済ニュースを見れば、ファイナンシャルプランナーの方たちが、「65歳以上は持ち家でも3500万は必要」「ゆとりある生活を送るなら4500万はいる」などと、さも「常識」のように語っているし、三菱UFJ信託銀行のホームページにも特にもったいぶった形でなく、しれっとこう書かれている。
「一般的には老後資金の目安は3000万円だといわれることもありますが、これは年金以外の収入がなくなった際に、年金だけではまかないきれない分を指しています」