「国家が破綻するとは、どういうことだ。つまりデフォルトが起こると国と国民はどう変わる」
「あなた、そんなことも知らないの。官僚なんでしょ。しかも、難しい試験を通った」
「僕は国交省の役人だ。財務省や金融庁とは違う。国家のハード部分を担いたくて官僚になった。世界で最も豊かで住みやすい国の建設だ。国と国民の発展の部分だけを見つめて、追いかけてきたんだ」
自分で言いながらも気恥かしくなった。半分は本音で、半分はウソだ。しかも本音の部分は時間と共に薄く、遠くなっていくような気がしている。
「何があったの。先に何があったか話してよ」
優美子は森嶋に詰め寄った。
「優秀な財務官僚に、デフォルトの講義を受けたいだけだ」
「あなたはウソの付けない人なのよ。前にも言ったでしょ。だから政治家向きじゃない。まだ官僚の方がましなのよ」
森嶋は明け方にロバートが来たことと、彼が言ったことを出来る限り正確に話した。
優美子は無言で聞いていた。
「信じていいの、そんな話」
聞き終わった優美子が言った。
「僕だって信じられない。しかし、否定する理由もない」
「あなたのアメリカの友達は、まだあなたの部屋で寝てるの」
「たぶん」
「呼び出して聞いてみたいわね。真実かどうか」
「寝てるのを起こされると、最高に機嫌の悪い奴なんだ。それに、電話の音くらいじゃ起きない」
森嶋は自分のベッドで眠り込んでいるロバートを思った。彼がウソを言ってるとは思えなかった。