小麦とパン写真はイメージです Photo:PIXTA

「小麦は健康に悪い」という俗説が広まり、穀物そのものが問題視されることも増えている。なかには、小麦が多くの病気の原因だとする極端な説まで登場しているという。しかし、本当にそうなのだろうか。学際的研究者のバーツラフ・シュミル氏が、食料消費量と平均寿命のデータをもとに、小麦をめぐる議論を検証する。※本稿は、学際的研究者のバーツラフ・シュミル著、栗木さつき訳『世界はいつまで食べていけるのか 人類史から読み解く食料問題』(NHK出版)の一部を抜粋・編集したものです。

小麦が死の原因になる?
消費量と寿命のデータから分析

 この数十年、また穀物は悪者扱いされてきたーーなかでも小麦が槍玉に挙げられ、精製度の高い白い小麦粉は現代の健康問題(比較的めずらしいセリアック病から糖尿病患者の増加まで)の元凶と見なされるようになっている。2015年、アメリカの心臓専門医ウィリアム・デイヴィスは、こうした主張をさらに過激化させ、ニューヨーク・タイムズのベストセラーリスト入りした著書でも、あらゆる戦争の犠牲者の累計(!)よりも、小麦が多くの人命を奪ってきたうえ、肥満や糖尿病だけではなく、心臓病、認知症、統合失調症、がんなど、さまざまな健康問題を引き起こしていると主張した。もしかすると、小麦はあらゆる残虐行為や自然災害の原因でもあるのだろうか。

 しかし、それが真実なら、小麦の消費による害悪の数々がありながら、実際には寿命が延びているという事実をどう説明するのだろう?この有害きわまる食物を生涯にわたって毎日摂取していれば、あらゆる重病に罹患(りかん)して寿命が縮まるだろうに、実際には世界でうらやまれるほどの長寿を実現することなど可能なのだろうか?