「ギリシャの時と同じよ。財政の徹底した緊縮政策が強いられる。税金が上がり、社会保障が軒並み削られる。年金が下げられ、医療費、医療保険が上昇し、年金をはじめ、生活保護費、失業保険、各種の保護費が削られるかカットされる。国民生活は圧迫される。でも、それは仕方がない。長年の放漫財政のつけが一気に表面に出てきたのよ」

 ギリシャでは暴動も起きたが、日本国民は黙って従うだろうか。

「ただし、外国から借金する前にまだまだやれることはあるわ。まず海外に貸し出してる金を回収する。それらの中にはアメリカ国債だってある。IMFに貸している金だってある。それらを回収すればいい」

「アメリカ国債を果たして売らせてくれるのか。何十年も前だけど、日本の総理がそういう話をにおわせただけで、アメリカは大騒ぎになった。やはり、そうとう危惧はしている」

「韓国が破綻したでしょ。それにロシアの銀行の取り付け騒ぎ。実は財務省も昔、破綻シミュレーションをしたことがあるの。でも、あまりの凄まじさに封印したらしいわ。現在の状況は当時よりさらにひどくなってるでしょうね。債務残高が1000兆円を超えたんだから。こんな夢みたいなお金、どうやって払えというの」

「人ごとのように言うな。財務省の官僚なんだろ」

「私は国交省に出向してる。状況から判断すると当分は帰れないわね」

 森嶋は殿塚の言葉を思い出した。デフォルトを避けるための道州制であり、首都移転だ。日本に必要なのは、希望の持てる目標だ。

「デフォルトが起きた場合の現実的な行程を教えてくれ」

「まず、一時的な支払いのためにIMFからお金を借りることになるでしょうね。そのためには、明確な緊縮財政政策の提示が必要。日本は借金をするために、これだけの事をやりますというね。まず国家予算の約30パーセントを占めている医療と福祉予算のカット。そうなると医療費の値上げ、生活保護の大幅削減、年金の大幅カットも必要。福祉の低下はまぬがれない。大騒ぎになるでしょうけど、仕方がないでしょうね。そして増税。それには消費税をもっと上げるのがいちばん簡単で手っ取り早い。ヨーロッパじゃ20パーセントは普通よ。でも、これも国民が黙ってはいないでしょ。さらに、公共事業の大幅削減。倒産企業が続出するでしょうね。そうなると失業者は増え、失業保険はカットされる。為替レートが落ちるでしょうね」

「輸出が伸びるからいいんじゃないか」

「日本の原発は止まってるでしょ。燃料費は何倍にもなってる。食料だって、輸入に頼ってる。その値段がさらにまた上がるってことよ。これじゃ、中小企業はやってられないでしょ。さらに倒産企業が増えるわよ。完全に日本は破綻スパイラルに入っていく。そしてそれは、世界に広がる」

 優美子の口調が遅くなった。言っているうちに不安になったのだろう。

「日本発の世界恐慌の始まりか」

 森嶋が低い声で言った。

 その時、森嶋の携帯電話が鳴りだした。

 着信画面を見る森嶋の目に驚きが現われた。

(つづく)

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