「デフォルトが起こると、まず国債の償還が出来なくなるでしょうね」
やがて、優美子がゆっくりと話し始めた。
「現在でも、毎年20兆円が支払われている。国家予算の20パーセント以上。その支払いを中止して、紙くずにしてしまうか。でも、そんなことが許されるはずがない。それを防ぐには、どこか国際機関からお金を借りてこなきゃならない」
「日銀が国債償還のために札を刷るというわけにはいかないのか。輪転機を回せばいいだけだ。売り出しているのは円建ての国債だ。買っているのは日本人がほとんどだし、彼らに支払うのはとうぜん円だ。何も困ることはないはずだ。デフレの解消にもつながる」
「そう簡単にいかないのが為替なのよ。日銀はインフレを懸念している。為替相場が一気に下がる懸念もあるわよ。ようは外国がどう受け止めるか。個人的には心配しすぎてると思ってるけどね。それに、日本ではすでに破綻している自治体があるでしょ。あれは日本が破綻する前の予行演習だなんて揶揄する人もいたわ」
「夕張の国家版と考えればいいのか」
「そんなの私にも分からない」
優美子ははぐらかすような言い方をした。
2007年、北海道の夕張市が財政破綻した。
後先考えず、客も入らない箱物を作りすぎ、膨大な維持費で財政が圧迫されていたのだ。
国の財政優遇措置を受ける代わりに、国の指導を受け、市役所職員数および給与の削減、市民税や固定資産税の増税、公立学校の統廃合、図書館の廃止、ゴミ処理の一律有料化など大きな影響がでた。
「国債の債務不履行に陥り、破綻する銀行も出てくるわね。そうなると国民が、銀行や郵貯に一斉に預金引き上げに走る。その影響で他の安全な銀行までが、破綻の恐れが出てくるわ。かつてのバブル後の破綻どころじゃない。銀行は生き残りのために貸しはがしに走り、企業倒産は倍増するでしょう。もう日本中がパニックになる。それを回避するためには、国際通貨基金、IMFに借金しなくちゃならなくなる。でも、ただじゃ貸してくれない。当たり前の話よね」
優美子はため息をついた。