6月に発表された金融庁の審議会の報告書は、「老後資金2000万円不足報告書」などと呼ばれ、大きな反響を呼んだ。不安に感じた読者も多いかも知れない。しかし、普通のサラリーマンは何とかなるので、いたずらに不安に怯える必要はなさそうだ。(久留米大学商学部教授 塚崎公義)
老後資金は1億円必要だが
貯金が1億円必要なわけではない
老後資金は1億円必要だ、といわれる。これは間違いではない。60歳で定年を迎えて、同年齢の夫婦2人が92歳まで生きたと仮定した場合、毎月25万円で32年間生活すると9600万円かかる。
60歳の女性の平均余命は29年であるから、医学が進歩すること、平均以上に長生きする可能性があることなどを考えて、32年分の生活費を考えるのは不自然なことではない。
これに加えて、病気など万が一の時に備えて400万円持っておくとすると、合計1億円必要だということになる。400万円は、何事もなければ葬儀代として相続人の手に渡るはずである。
しかし、60歳の時点で1億円持っている必要があるわけではない。これは常識で考えればわかることだ。今の高齢者で、60歳時点で1億円持っていた人は極めて少数であろうが、多くの高齢者は何とか生活できているのだから。
サラリーマンは
年金が比較的充実している
厚生労働省によると、標準的なサラリーマンと専業主婦は、夫婦合計で毎月約22万円の年金が受け取れる。
話題の「報告書」では、高齢無職世帯の年金収入が19万円強となっているが、これは年金が比較的少ない自営業者等を含めた全体の平均なので、22万円というのはサラリーマンとしては標準的だと考えてよさそうだ。