結果、大坂なおみはジャーメイン・ジェンキンス氏とコーチ契約した。全米テニス協会で将来を嘱望されていた存在だから、コーチとしての素質や技量は確かだろうが、サーシャ氏の後を頼む相手としては力不足の感は否めない。ジェンキンス氏もまたコーチ経験は浅く、4大トーナメントのセンターコートで大坂に力を与える存在感も実績もないからだ。

もう一度上昇気流に乗るために
必要なコーチは誰か

 サーシャコーチと別れて、レジェンド級のコーチと契約したなら、どうだったろう。シーズンごとに、コートの特性に合わせた短期コーチと数ヵ月単位で契約する方法もあった。

 例えば、苦手といわれるクレーコート対策として、「全仏オープン7回優勝」「クレーコート125連勝」も記録した元女王クリス・エバートに全仏までの指導を依頼する。その後は、あくまで外野席の希望的アイディアだが、同じ日本の先輩・伊達公子さんに気持ちの強さを注入してもらう選択肢もあっただろう。しかし、大坂なおみは、そのような方向に動かなかった。

 世界のレベルは甘くない。自分だけでやれるほど簡単に勝てるレベルではなくなっている。ライバルたちはみな、選手1人の力でなく、メディア戦略、データ分析なども含め、総合的なチーム力を結集し、しのぎを削っているからだ。ところがいまの大坂なおみは、自分以上のもの、自分以外のものを極力排除し、自分の感覚だけで戦おうとしているように見える。そうしたメンタリティーが、現代の女王であり続けるための障害になっているように感じる。

 いまテニスの世界は、1人では勝てない。

 大坂なおみが、もう一度上昇気流に乗るために、こうした発想と志向性を変えることができるか。また大坂の信頼を得て、それを助言できるスタッフやコーチに出会えるかどうかが打開への大きな鍵になるのではないか。

(作家・スポーツライター 小林信也)