知的障害と性同一性障害を併せ持ち、実の両親からも理解されずに生きてきた男性がいる。福祉にもつながれず、生活をするために万引きや窃盗を繰り返してきた。福祉と司法、その間に落ちて適切なケアを受けられずもがいてきた方に話を聞いた。(ジャーナリスト 横田由美子)
60歳の「累犯障害者」
はじめさんとの初対面
はじめさん(仮名)、60歳。これまでに、医療少年院に2回、刑務所に13回入っている。人生の半分近くをおりの中で過ごしてきた人だ。知的障害と性同一性障害の疑いのある、いわゆる「累犯障害者」でもある。
現在、はじめさんは、東京・八王子にある社会福祉法人武蔵野会の生活実習所に毎日通っている。昼食を職員の人たちと一緒にとり、草取りや落ち葉拾いなどの軽作業をして過ごしている。自宅アパートは、実習所から徒歩数分。出所当初は、収入のないはじめさんの代わりに武蔵野会が借り上げたアパートに、今は本人が家賃を払って生活している。
私はこれまで数年にわたり、医療刑務所や少年院などを取材してきたため、彼らが一般的にイメージされているような凶悪犯でもなければ、猟奇的な犯罪者でもないことは、すでに知っている。むしろ、福祉と司法の間にいるがために、その編み目からこぼれ落ちてしまった人たちであることが多い。
とはいえ、いつも取材で初めて会うときには、「少し緊張してしまう」ことも確かだ。そして私は帰り道、そのような懸念を抱いてしまった自分に対して嫌悪する。
はじめさんを担当している、社会福祉士兼介護福祉士のまゆみさん(仮名)に付き添われて現れた彼は、ガタイもよく、トレーナーにジーンズと一見普通の格好だが、よく見ると胸が妙に膨らんでいた。ブラジャーをつけているからだと、後から知った。持っているバッグも女性もので、かわいい動物のミニストラップがついている。そして、どことなくおどおどしていて、長年、はじめさんを見守ってきた法人の理事長やまゆみさんの方をちらちらと見て、心を落ち着けていた。
取材者である私が同じ“女性”であることが、安心した要因のひとつだったようで、少し時間がたつと笑顔を見せた。