「3年前だな」
「なるほど。それなら、Aさんの主張通り有休の取得義務があります」
「しかし、Aに有休を取られたら人手が足りず、店の経営にも影響が出て困るよ。当分勘弁してもらえないかな」

 B社長は法律の存在を知っていたのにもかかわらず、わざと目を背けていたのである。そして、慌てて言葉を付け足した。

「そういえば『時季変更権』ってあるよね。その制度を使えないのか?」

勤続6ヵ月で
有休取得義務が発生する

 D社労士は厳しい口調で続ける。

「では逆に質問しますが、今の状況でAさんはいつ有休取得が可能か、具体的な提案はできますか?ただ忙しいという理由だけでは時季変更権の行使はできません」

 B社長は黙ってしまった。さらにD社労士は、労基法39条の条文と資料を見せて説明した。

「Aさんの場合、1年間に最低5日間は会社側が有休を取得させる義務があります」

 乙店にはAの他に正社員が2人在籍しており、両人とも勤続1年以上なのでAと同様の扱いが必要だということだ。

「これは困った。もし彼らにも5日間の有休を取ってもらうことになると、営業できないよ」
「とにかく、どうすればAさんや他のスタッフが有休を使えるのか考えてみましょう。もし有休取得の申し出があった場合、休みの理由を伝える義務はないので、高圧的にしつこく聞くのは避けて下さい」

「有休の申し出を拒否すると、パワハラになるのか?」
「それだけの判断ではなく、普段から言葉遣いが荒かったり、人を見下したような態度や言動を取っていたりすると、パワハラだと取られるかもしれませんね」
「それって俺のことじゃん。じゃあ労基署から指導されるのか?」
「今回のことで通報されたとしても、労基署が動くとは限りません。ただ、パワハラは相手が感じることなので、これからは気をつけた方がいいですね」

 B社長は、D社労士の言葉に頷くしかなかった。