<怒るとは、要は自分が抱いたネガティブな感情を周囲に発信する行為となる。だからこそ、怒っている時に発する言葉は相手にもネガティブな思いしか与えないし、そこからは何も生まれない。人間である以上は僕も怒りたくなる時もあるが、指導者として可能な限りそういう感情を封印してきた。

 対照的に叱るとは、厳しい言葉を発している自分を、もう一人の自分が見ていると説明すれば分かりやすいだろうか。叱るとは決して自分のためではなく、相手のことを思っての行為となる。叱った時に発する言葉は、相手が『自分のために言ってくれている』と受け止めてくれていると僕は思っている。

もう一人の自分が『これ以上はもう言うな』とか、あるいは『もっと言っていい』と状況を冷静に見極めているからこそ、叱ったことを引きずらない。ものの10分もたてば叱った相手に話しかけることもあるし、叱ったから明日から無視するとか、次の試合で使わないことも絶対にない>

 前述の著書ではこう記してもいる曹監督は、あくまでも強制することなく、同じ高さの目線に立ちながら選手たちの自主性や自立性をも引き出し、緻密な戦略と融合させる指導に徹してきた。パワーハラスメント行為が蔓延していれば、望んで復帰する選手が多いチーム編成も、一丸となって戦う姿勢も生まれていないだろう。

曹監督に進言する人間は
周囲にいなかったのか

 しかし、ハラスメントは受ける側の意識に大きく依存する。一線を越えて心の中に踏み込まれた、と受け止められたとしたら。曹監督から「叱られている」のではなく、「怒られている」と受け止められたとしたら――どれだけ第三者的な姿勢を貫こうにも指揮官の立場では難しくなってくるだけに、選手やスタッフをフォローする人間や、あるいは曹監督を諫める人間が周囲にいなかったのだろうか。

 今回の一件は7月に、日本サッカー協会が設置する「暴力等根絶相談窓口」に、曹監督によるパワーハラスメント被害を訴えたとされる情報が匿名で届けられたことに端を発する。Jリーグが調査の準備を進めている中で、情報をつかんだスポーツ2紙が報道を先行させている状況だ。

 真実はJリーグによるヒアリング調査の結果が出るまで分からないだろう。それでも次の試合はすぐに訪れる。高橋健二コーチが監督を代行する形でホームにサガン鳥栖を迎える、17日の明治安田生命J1リーグ第23節は、曹監督の下で鍛えられてきた心の強さも問われる90分間になる。