かつて被害者だった貴ノ岩が
今度は加害者となり引退

スポーツ界の暴力・パワハラ問題が相次いだ今年。現場の指導者は「やりづらく」なってはいなのだろうか。写真はイメージです Photo:PIXTA

 貴ノ岩が付け人を暴行し、責任をとって引退した一件には唖然とした人も多いだろう。

 ちょうど1年ほど前、貴ノ岩は真逆の暴行被害者の立場にあった。昨年10月、モンゴル出身の先輩である横綱日馬富士に暴行を受けたのだ。この時は元師匠の貴乃花親方の介入もあって大騒動に発展。そして約1ヵ月後、日馬富士は引退に追い込まれた。

 日本相撲協会もこの事態を重く見、相撲界から暴力をなくすことに本腰を入れて臨む姿勢を打ち出すようになった。今年10月には暴力問題再発防止策を発表。暴力を振るった者には厳罰を科すと表明した。この動きの発端となった事件の被害者で、暴力には一番遠いところにいなければならない貴ノ岩が、事もあろうに暴行事件を起こして力士生活を棒に振ってしまったわけだ。

 体が激しくぶつかり合う相撲は伝統的に暴力的行為を容認する土壌があった。朝稽古を何度か見学したことがある。10年ほど前だが、ある親方は竹刀を片手に指導をし、気の抜けた稽古をしている弟子がいると怒鳴りつけ竹刀で叩いていたものだ。部外者が見ていても、そんなことができる世界だったのだ。

 長年続けてきた習慣を変えるのは難しい。相撲協会の幹部の人たちも、若い頃は多かれ少なかれ暴力を受けたことがあるだろうし、親方になってから暴力的指導をしたことがあるかもしれない。その人たちが暴力根絶を語るようになった。そんな矢先に起こった貴ノ岩の暴行事件。根づいていた体質を変えることがいかに難しいかが分かる。

 ただ、奇しくも貴ノ岩が関係した昨年と今回の暴行問題が世間の注目を集め、相撲協会が暴力と決別する姿勢を見せるようになったことは、相撲界の古い体質を見直す動きにつながりそうだ。