首都圏を直撃した台風15号。首都圏のJRと私鉄は初めて、足並みを揃えて計画運休に踏み切った。しかし、運転再開を巡っては駅に長蛇の列ができるなど、大混雑が起きた。計画運休は確かに有効な取り組みだが、「運転再開」が課題なのだ。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)
首都圏JR・私鉄も
計画運休に踏み切った
8日深夜から9日朝にかけて関東を縦断した台風15号は、神奈川県や千葉県の沿岸部を中心に大きな被害をもたらした。首都圏のほとんどのJR線、私鉄線が8日夜から9日朝にかけて運転を見合わせたため、各地で通勤・通学ラッシュが大きく混乱した。
この光景に既視感を覚えた人も少なくないはずだ。JR東日本は、昨年9月30日から10月1日にかけて近畿から東北へ本州を縦断した台風24号でも計画運休を実施。30日正午に「20時以降、首都圏の在来線の全ての路線について順次運転を取りやめる」と発表し、終電を繰り上げて営業を終了した。翌1日の運行は、30日夜の時点では「おおむね平常通り」としていたが、台風の被害が予想以上に大きいことが判明、当日の朝4時になって「始発から全ての路線で運転見合わせ」が発表されたため、運休を知らない乗客が駅に押し寄せて大混乱となった。
この反省をふまえ、今回は8日17時過ぎに「9日は始発から午前8時頃まで運転を見合わせる」ことを発表。また、運転開始後も通常より本数が少なく、点検で異常が見つかった場合は運転開始が遅れる可能性もあることが付け加えられていた。しかし、今回も被害が予想以上に大きく、ほとんどの路線の運転再開が朝8時以降にずれ込んだことで、結果的に昨年の混乱が再現されることになった。
もちろん、一般利用者に計画運休の認知が広がったこと、翌日の運転状況について予告が行われたこと、JR東日本だけでなく私鉄各社も計画運休に踏み切ったことなど、昨年より改善が見られた点も少なくない。2014年から計画運休を実施しているJR西日本も、当初は失敗が続き、多くの批判が寄せられたが、手法の改善と利用者の理解が進んだことで、ようやく定着したという経緯がある(「JR西日本の『計画運休』に称賛の声、台風21号から乗客守る」参照)。
国土交通省は鉄道事業者と一緒に、計画運休時の望ましい情報提供のあり方について検討を進めており、今年7月には、計画運休の48時間前に実施の可能性、24時間前に詳細内容を発表する「情報提供タイムラインのモデルケース」を提示している。ただ、このレベルの事前告知は未だに実現していないのが実情で、計画運休発表時の休業、休校の取り扱いなども含めて、鉄道事業者と利用者の双方に、もうしばらくの経験の蓄積が必要になりそうだ。