運転の早期再開は
しないという選択肢もアリ

 そのため、降雪時の間引き運転などで運転本数が減ると通常の乗客を運びきれなくなり、激しい混雑と遅延が発生する。あるいは朝ラッシュ時間帯、並行する路線が人身事故で運転見合わせになると、もう一方の路線に乗客が集中して駅では入場規制が行われ、列車は超満員で乗降に時間がかかり、輸送はマヒ状態に陥る。つまり、大都市圏の鉄道網は通常でも綱渡り状態で成り立っている代物であり、輸送のバランスが少しでも崩れれば、途端に機能しなくなってしまうものなのだ。

 それだけに、鉄道事業者はどのような状況下であっても、可能な限り輸送を確保し、支障があった場合はそれを最小限に留め、早期に運転を再開させる「習性」を持っている。日本の公共交通の信頼性と安定性が、このような勤勉さに支えられていることは確かである。

 しかし、運転再開を急げば急ぐほど、列車の本数が少ないなど、通常運行とは程遠い状態からスタートせざるを得ない。そこに、「電車が動いている!」と判断した乗客が殺到すれば、たちまち大混乱が起きてしまう。これは、鉄道事業者にとっては余りに大きなリスクであるし、回り回って事業者自身の首を絞めかねない。

 早期の運転再開が、かえって全体の混乱を招くのであれば、運転を再開できる状況であっても、混乱を避けるために(そして旅客の安全のために)あえて運転再開しない選択肢があってもいいはずだ。

 最大の課題は、これからやってくる台風に対応するためではなく、台風が過ぎ去った後も運転再開を引き延ばすことを、利用者と社会が受け入れられるかどうかである。しかし鉄道に危険を及ぼすのは強風と大雨だけではない。利用者の殺到による大混乱を避けることも、安全・安定運行のために鉄道事業者が果たすべき責任のひとつだろう。

 平日の朝ラッシュ時間帯に台風が大都市圏を直撃するのは、年に1度あるかないかの話だ。たとえ空振りになったとしても、万が一を避けるために1日くらい会社や学校を休んだほうが手っ取り早い。私たちがそういう社会を望むかどうかという選択肢である。

 JR西日本が始めた計画運休は、私たちの社会を変えるほどの大きな意義のある取り組みであった。安全に運転を止めることができるようになった今こそ、安全に運転を再開させるための取り組みに着手すべき時である。