ジョンソン英首相Photo:AFP PHOTO / PRU

9月9日、欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)に関してEUと合意できなかった場合に、EUに対して離脱の延期を要請するよう英政府に義務付ける法案が成立しました。ボリス・ジョンソン英首相は、10月末の期限までにEUとの合意がなくとも離脱を強行することを公約してきましたが、この法案の成立により、公約の実現はいっそう難しくなったと考えられます。(評論家 中野剛志)

議会制民主主義の模範国は
なぜ機能不全に落ったのか

 英国の議会は、近代の歴史において、議会制民主政治の模範とされてきました。その英国の議会が、2016年の国民投票によってEU離脱が決まってからというもの、ほとんど機能不全と言いたくなるような混迷に陥っているのです。
 
 このEU離脱を巡る英国の政治の混迷は、実は、我々日本人にとっても決して他人事ではない、ある歴史的に重大な問題を提起していると私は思います。それは、「民主主義が破壊される」という問題です。どうして、民主主義が破壊されるのでしょうか。大衆煽動的なポピュリスト政治によってでしょうか。違います。民主主義を破壊するもの、それは、グローバル化なのです。

 このことを理解する上では、米ハーバード大学のダニ・ロドリック教授の議論が参考になります。ロドリック教授はグローバル化、国民国家、民主主義の三つは「トリレンマ」の状態にあると論じました。「トリレンマ」とは、三つの選択肢のすべてがいっぺんに成立しない状態のことを言います。つまり、グローバル化、国民国家、民主主義の三つを同時に実現できないというのです。したがって私たちは、次の三つのうちのどれかを選ぶしかありません。