ビッグデータ活用で、圃場に直接植裁しない栽培
もう一つ、注目すべき試みがある。「根圏制御栽培」だ。3ヘクタールものぶどう園で、ぶどうの木はいずれも畑にではなく大きな鉢に植えられているのだ。それぞれの鉢は、灌水用のホースでつながっている。
栽培しているのは甲州種のぶどうで、甲州種は地中深くに根を張り、そのためにミネラル分が濃くなり、甘くなるという特徴がある。しかし高谷課長によれば、「その樹勢の強さこそが作業の効率化、省力化を目指す上で最大の課題」だった。つまり肥沃な土壌に直接植栽すると根が伸びて樹勢が強まり、各種の作業をコントロールしづらくなる。
「ならば、土に植栽されたぶどうが持つミネラルや糖分などの計測データを活用し、それを制御すれば良いのではないかと考えたのです」(高谷課長)
まだ開発段階の技術だが、規模拡大をして試験を進めるために基礎となるデータが、すでにあった。JPVは、16年に自社管理栽培を始め、根域制限栽培にも挑戦を始めたが、その際、根圏栽培の条件最適化と普及展開を進めていた栃木県農業試験場のコンソーシアムに参画。当時の農水省の政策である「革新的技術開発・緊急展開事業(うち地域戦略プロジェクト)」の実証事業を受託して土壌の作り方や潅水、液肥の条件、新梢や果実の評価などを進めてきたのである。
ぶどう栽培では、鳥獣被害も深刻な課題だ。実際、実証圃場でも被害が確認されていた。だが、「ロボットに鳥獣が嫌がる音の発信器を装着させて自動で巡回させる」といったアイデアも、決して難しくはない。
高谷課長は、「農業者の減少は、人手不足となり、収穫減となり、コスト増となります。しかし見方を変えれば作業者1人当たりの農地を広げられ、作業量は増えますが収益を増やす機会になります。逆転した流れを生み出すのが“小回りの利く道具”であり、スマート農業は、それを現実のものにしようとしてくれています」と語る。
高収量・低コストのハイブリッドの「日本式醸造ぶどう栽培のスマート農業一貫体系」。ワインファンの人には、ぜひ知っておいてほしい挑戦だ。
農林水産省は、より多くの人にスマート農業に関心を持ってもらうために、11月20日から22日、「アグリビジネス創出フェア」においてブースでのポスター発表やセミナーを開催する。
記事で紹介されている地区を含め、全国69地区の実証担当者が集合。ぜひこの機会に足を運んでみよう。入場無料。
<アグリビジネス創出フェア>
2019年11月20日(水)~22日(金)10:00-17:00
東京ビッグサイト 西4ホール
・ブース詳細:https://agribiz-fair.maff.go.jp/list_detail.php?keyno=143
・セミナー詳細:https://agribiz-fair.maff.go.jp/seminar.php