そしてさらに13年後、今度は「獣医も、近くのヤブより遠くの名医」と確信させられる出来事が起きた。

 A子さんの家には、10歳になるミックス犬(オス)がいる。乳歯から永久歯に生え変わった際、エナメル質形成不全という先天性の歯の疾患が見つかり、車で20分ほどのところにある動物高度医療センターで治療を受けた。

 歯をエナメル質の代わりになる薬でコーティングするだけ、という実にシンプルな治療だったが、全身麻酔で行うため、動物の歯医者さん、麻酔科医、消化器医の3人の専門医が担当し、半日入院で9万円かかった。

 ペットには公的保険制度がないので、費用は当然、丸まる自己負担。先天性疾患が見つかったことで、動物保険に加入することもできなくなった。

 近所には、徒歩15分圏内に5軒動物病院があるが、A子さんは、その中で一番近くて、散歩コースの途中にあって、診療費も良心的な病院を選んだ。

 猫を3匹飼っている近所の友人からは「あの先生は、定期検診や軽い病気のときはいいと思うけど、重病のときは頼りにならないよ」と言われたが、愛犬は10歳になるまでずっと元気だったので、特に問題はなかった。

 ヤギのような白ひげを生やした穏やかな風貌、野良猫の保護活動も行っている獣医師に愛犬はよくなついており、散歩で近くを通ると、「先生の所に行こうよ」とリードを引っ張った。

CT検査料16万円
結石手術50万円

 10歳を迎えると、愛犬は急に老けだした。白髪が目立つようになり、階段を上るのもいやがる。公園で出合う犬たちには、8歳で亡くなった子たちも少なくなかったので、10歳はもう立派なおじいちゃん犬なのかもしれない。

(でも、20歳まで生きている子もたくさんいるから、少なくとも15歳までは生きてほしいな)

 食餌にも気を配り、毎日せっせと散歩した。

 そんなある日、散歩の途中で、おしっこに真っ赤な血が混ざっているのを発見した。いつもの動物病院の近くだったので、急いで連れて行くと、「膀胱(ぼうこう)炎だろう」ということで薬を処方され、血尿はすぐにおさまった。