【出口治明との質疑応答1】
「何かを勉強したらすぐに役立つ」
なんて思考は今すぐやめたらいい。

世界1200都市を訪れ、1万冊超を読破した“現代の知の巨人”、稀代の読書家として知られる出口治明APU（立命館アジア太平洋大学）学長。歴史への造詣が深いことから、京都大学の「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義では世界史の講義を受け持った。
その出口学長が、3年をかけて書き上げた大著が、なんと大手書店のベストセラーとなり、話題となっている。BC1000年前後に生まれた世界最古の宗教家・ゾロアスター、BC624年頃に生まれた世界最古の哲学者・タレスから現代のレヴィ＝ストロースまで、哲学者・宗教家の肖像100点以上を用いて、世界史を背骨に、日本人が最も苦手とする「哲学と宗教」の全史を初めて体系的に解説した本だ。なぜ、今、哲学だけではなく、宗教を同時に学ぶ必要があるのか？
脳研究者で東京大学教授の池谷裕二氏が絶賛、小説家の宮部みゆき氏が推薦、某有名書店員が激賞する『哲学と宗教全史』が、発売後たちまち第4刷が決まり、「日経新聞」にも大きく掲載された。
9月7日土曜14時、東京・八重洲ブックセンターに約80名が集結。満員御礼の出版記念講演会につづき行われた質疑応答が盛り上がった。今回からは普段、めったに明かされない出口学長と会場のみなさんとの「白熱の質疑応答」を特別にお届けしよう。

哲学と宗教はビジネスに
どう役に立つのか？

――（書店員）では、ここからは質疑応答になります。
　直接出口学長に質問できる機会もめったにないと思いますので、どんどん質問いただけたらと思います。

出口　なんでも答えますので、手を上げてください。はい、どうぞ。

――僕は金融機関に勤めています。いつも出口さんの本を読んでいます。
　哲学史や宗教史が、ビジネスに与える影響について伺いたいです。
　出口さんは大学1年のときに宗教を学び始め、その後日本生命に就職されましたが、実際に仕事をしていく中で、哲学や宗教が仕事と結びついた経験があれば教えてください。

出口　ビジネス書を読んで、それが仕事にすぐに役に立つなら、仕事なんてチョロいですよね（笑）。

　まず、何かを勉強したら、仕事にすぐ役立つという考え方を捨てるべきです。

　興味があるもの、好きなものを勉強したら楽しいわけですから、それで十分だと思うのです。

　そういうものが、仕事のヒントになったらラッキーくらいに思っていれば十分じゃないですかね。

　ただ、哲学や宗教は、何を対象にしているかといえば、世界を対象にしている。
　その世界を認識しているのは人間です。

　最近、宇宙のことが科学的によくわかってきましたが、「人間宇宙論」といって、ビッグバン以降、現在の我々が住んでいる宇宙の姿は、実は人間にものすごく都合よくできているのです。

　哲学や宗教は、ギリギリのところで人間とは何か、世界とは何かを考える。
　一方、ビジネス書で教えてくれるのは、テクニックや技術です。

　どんなビジネスも人間を相手にしているので、人間を理解する面で哲学や宗教がすごく役に立つと思います。
　僕は、新卒で日本生命保険の京都支社に入ったのですが、最初に配属された部署は、女性18人で男性は僕が1人という事務セクションでした。

　そこに、とある宗教に熱心な年上の女性がいて、「毎週土曜に、面白い集まりがあるからおいで」といって、無理矢理、宗教的な集まりに連れていかれたのです。

　そのときに、「あっ、宗教って、確かに昔、勉強したものとそっくりだな」と思いました。

　上手に断れたのに、行ってしまったことが後々役に立ったのです（笑）。
　それでいいですか？

――よくわかりました。ありがとうございます。

（つづく）