外科手術に革命を起こす
血の出ないメスを開発

 谷先生の直近の功績は、独自に開発を重ね、医療機器メーカーの日機装と共に製品化した、電子レンジや携帯電話と同じマイクロ波を利用して切離と同時に止血もできる血の出ないメス「アクロサージ」だ。マイクロ波を用いる治療用製品は、1981年に針型で実用化されているが、ハサミ型と鑷子(ピンセット)型は世界初。

 アクロサージがどれくらい役に立つのか、一般人には分かりにくいので、少し解説したい。

 外科手術はある意味、出血との戦いだ。出血が少ないということは、即ち肉体に与えるダメージも小さいということにつながるし、大量に出血した場合には、いかに迅速かつ手際よく止血できるかが手術の成功、ひいては患者の生命を左右する。

 電気メスは、そうした医療現場のニーズに応えて開発され、今やそれなしには外科手術が成り立たないほど、重要な医療機器になっている。

 ただし従来の電気メスには、改良すべき点が多々あった。高周波や超音波を用いて、切離する箇所の組織表面を加熱することでその機能を果たすため、加温のON-OFF スピードは遅く、組織は焼け焦げ易く、周辺にも熱損傷を与えてしまう。電気メス使用中のオペ室には、肉の焦げる臭いと煙や湯気が漂い、切離部分にできた焦げは、剥がれる際に再出血の原因にもなる。煙やミストはしばしば視野を妨げ、手術の手を止めざるを得ない、などだ。

 アクロサージは、電子レンジと同じ2.45GHz帯のマイクロ波を使い、生体組織を凝固することで切離と止血を同時に行う。生体組織の水分子にマイクロ波が直接作用し、水分子を励起して発熱するので、生体組織の外側だけでなく内側からも加熱される点で、高周波や超音波とは大きく異なる。加熱部分の温度は、高くても100℃を少し超える程度。生体を焦がす心配もなければ、煙も発生しないのだ。

 谷先生は、こうしたマイクロ波の特性に独自の技術を掛け合わせることで、日本の消化器外科医が世界に誇るリンパ節廓清術をエネルギー器具にて実現するべく、刃の形をハサミ状とし、リンパ管の封止も完全にできる器具として、従来品が持つ数々の弱点解消に成功した。

「その昔、輸血の登場が外科手術に革命を起こしたように、アクロサージは、輸血不要の手術を可能にするでしょう。手術が身体に及ぼすダメージを最小限にすることで、身体の回復が早くなり、入院日数も短くなります。リンパ節廓清時には、リンパ網のシーリングができるため、術中がん細胞飛散を抑制し、予後改善に寄与できる可能性があります。ほかにもメリットは枚挙にいとまがありません。

 電子レンジが台所に革命起こしたように、アクロサージは手術に革命を起こすでしょう」