患者が元気で長生きすることが
真に神業といえる手術の証

 さて、これほど凄い功績をあげてきたにもかかわらず、谷先生は「アイデアマンと呼ばれるのは好きじゃない」と語る。

「アイデアって、何か天から、努力もなしに閃きが降ってくるような印象がありませんか。そうではないんです。常に、患者さんへの低侵襲と医療現場の労働環境を改善するには何が必要かを考え続けているからこそ、アイデアにもたどり着けるし、問題を解決するヒントに気づくこともできる。ぽっと思いつくわけじゃない、問題意識の継続性が重要なんです」

 追求しているのは「患者さんのためになること」。加えて、大学で教鞭をとっていた頃には「できない理由を探すな、できることからやれ。」と教えていた。

「(滋賀医科大学)は新設医大ですから、従来の領域では、何十年も先行している大学に追いつくのは至難の業です。私たちが10年やったら、向こうも10年。だから、自分たちの特徴ある研究に取り組み、独自の武器を持たなければいけない」

 谷先生は金沢大学医学部を76年に卒業し、東京の虎の門病院外科に4年間勤務したのち滋賀医科大学第一外科に入局。85年に同大学医学研究科外科学専攻博士課程を修了したのだが、まだ助手にもなっていなかった大学院生時代に着手し、10年近い歳月をかけて開発したのがトレミキシンだ。

 一方アクロサージの開発にも10年余りの歳月をかけている。発端は放射線被曝のないMRI装置を術中モニターとして用いて、手術器具の位置をモニタリングしながら手術ができる「MR画像誘導下手術システム」の開発という壮大なプランだった。

「このシステムなら身体の深部を3次元で、リアルタイムで見ながら手術ができます。血管と神経の区別もできますし、温度も組織の代謝も画像化して表示される。同様の研究に取り組んでいる有名大学はたくさんありますが、リアルタイムに行えるシステムは我々が世界で唯一で、すでに動物を使った模擬手術実験に成功しています」

 アクロサージは、この手術システムの開発過程での副産物だ。MR画像強磁場下では、高周波も超音波も使えないため、MRと干渉しないマイクロ波の手術器具がどうしても必要だった。

「しかしながら、『MR画像誘導下手術システム』を世に出すには、もう少し時間がかかります。でもアクロサージなら、マイクロ波を用いた一般の手術器具として世に出せば、多くの現場で早く使っていただけると考え、先に事業化しました」