3人の幼い息子と
義母を残して夫が急逝
(やっと、解放される)。
土石流に破壊され、住めなくなったわが家の前で、美乃梨さん(仮名・56歳)は1人、たたずんでいた。14歳離れた夫・憲治さん(仮名・享年49歳)のもとに嫁いで30年間のつらかった思い出が、次々と脳裏によみがえってくる。
憲治さんとは、知人の紹介で知り合った。地方公務員で収入は安定しており、しかもハンサムで優しい。申し分ない人だったが若ハゲで、結婚後は両親と同居しなくてはならないという条件があった。しかし、美乃梨さんは気にしなかった。憲治さんの人柄に引かれていたし、優しい彼の両親なら、きっといい人だろうと思ったからだ。
だが違っていた。新婚旅行から戻り、同居を始めて間もない頃だった。物静かで、いつもニコニコほほえんでいる義母が、ポツリと言った。
「なんで、あんたみたいなブサイクな女と結婚したんだろうね。自分がハゲだから、我慢したのかね。かわいそうに。涙が出てくるよ」
氷のように冷たい目。微笑は完全に消えていた。