年金の繰り下げは
メリット1つにデメリットは3つ
このところ、「年金の繰り下げ受給」についての相談やメディア取材をよく受ける。6月に公表された金融庁の報告書が端を発した「老後資金2000万円問題」の影響で、年金に関心を持つ人が増えたからだろう。
本来65歳から受給開始の年金を受け取らずに、開始を遅らせる(繰り下げる)と年金額が増える。1ヵ月につき年金が0.7%増え、最長の5年遅らせると42%も増えるので、魅力的と考える専門家は多い。
「繰り下げ」の話題は、新聞や雑誌等が資金の準備に不安をおぼえる人に向けて、高い頻度で取り上げるようになったため、定年退職前後の相談者から「自分の場合は繰り下げるほうがいいか」と質問を受けることが格段に増えた。
「年金の繰り下げ受給」は、「年金額が増える」というメリットがあるが、次のような注意点やデメリットが3点あるので、よく知ったうえで判断したい。
(1)額面ほど手取り額が増えるわけではない
年金額が増えると、税金や社会保険料(国民健康保険料、介護保険料)も増えるため、手取りベースでみると額面と同じ率では増えない。
例えば、65歳から受け取る年金が230万円の人が5年間繰り下げると、70歳からの年金額は42%アップの約326万円となる。ところが、手取りベースでは36%アップにとどまるのだ。
受給開始を遅らせたことが「得」だったか「損」だったかを計算する「損益分岐年齢」という考え方がある。
例えば5年繰り下げて70歳から年金を受け取り始めると、額面では損益分岐年齢が81歳10ヵ月となるが、「手取りベース」で私が試算したところ、87歳となった。87歳というのは男性にとってはハードルが高いだろう。
(2)夫の死亡後に妻が受け取る遺族厚生年金は増えない
夫が厚生年金を繰り下げて年金額が増えたとしても、死亡後に妻が受け取る遺族厚生年金は夫65歳時の年金額をもとに計算されるため、遺族厚生年金は増額しない。
このことを知ると「だったら、繰り下げしなくてもいい」と言う妻は少なくないようだ。