アルツハイマー型認知症はいくつかある認知症の中でも最も患者数が多い、代表的な認知症だ(認知症にはアルツハイマー型、脳血管性、レビー小体型、前頭側頭型の4種類があり、アルツハイマー型が約6割、脳血管性が約2~3割で、患者の大半を占める)。これまで、症状の進行を遅らせるなどの改善薬は開発されてきたものの、根本的な解決策となる治療法は確立されていない。

 実際、フランスでは昨年、代表的な治療薬4種類全てが「有用性不充分」という理由で医療保険の適用から外されてしまった。日本での保険適用はまだ継続されているが、もはや打つ手なしなのか、と閉塞感を抱いた人は多いだろう。

「超音波で認知症を治す」という全く新しい治療手段が登場し、研究が進められているという知らせは、そんななかでもたらされた光明だった。

 ニュースは国内外の多くのメディアで取り上げられ、世界のトップジャーナル2誌にも立て続けに紹介された。1つは、ヨーロッパ心臓病学会の学会誌 『European Heart Journal』、もう一つは、米国心臓協会の学会誌『Circulation Research』だ。両誌で取り上げられたことは、認知症に対する治療法の開発が、超高齢社会の進展に伴う認知症患者の急激な増加と相まって、世界的に大きな課題となっていることを示唆しているのだが、同時に「あれっ」と思った人もいるだろう。

 認知症といえば脳神経内科か精神科の病気なのに、下川先生は心臓と血管を扱う循環器内科。しかも、トップジャーナル2誌はいずれも「心臓」が専門だ。

 将来、下川先生の研究は、認知症を脳神経や精神の病気から、血管を主とする循環器の病気に変えてしまうかもしれないのだ。

大災害で麻痺した都市を見て
心臓の医師になることを決めた

 下川先生が、循環器内科医になろうと決めたのは、九州大学医学部の6年生のときだった。

「福岡大渇水(1978年)が起きて、1日の給水時間が1~2時間という状態が何ヵ月も続いていたのです。帰宅して、蛇口をひねっても水が出ない。

 当時、九大には心臓を診る循環器内科と、脳卒中を診る第2内科があって、循環器疾患に興味があった私はどっちに進むべきかと迷っていました。

 でも、大渇水に遭って思いました。人体における心不全と同じだと。1つ1つの臓器に水道水=血液がいかないと生命を維持する機能がまひしてしまう。これはもう、心臓を診る医者にならなきゃいけないと決意しました」