次に取り組んだのは「内皮由来弛緩因子」の重要性。血管の内側の細胞(内皮細胞)は血管弛緩因子を産生・遊離して動脈硬化の発生・進展を抑制する重要な役割を有している。研究の結果、過酸化水素が、血管の恒常性維持や動脈硬化の発生・進展の抑制に重要な役割を果たしていることを世界に先駆けて突き止めた。

「当時、内皮細胞からは3種類の血管弛緩物質が産生・遊離されていることが分かっていました。1つはPGI2(プロスタサイクリン)、もう1つは一酸化窒素(NO)。私はアメリカのメイヨークリニックに留学して血管内皮の研究に打ち込み、さらに九大に戻った後も研究を続け、2000年に3つ目の弛緩物質が過酸化水素であることを発見したのです」

 専門的過ぎて分かりづらいが、前の2つの物質を発見・同定した研究者がそれぞれノーベル賞を受賞しているという。それだけすごいことなのだ。下川先生はこの研究を約30年間続けている。

 そして3番目の研究テーマが、冒頭で紹介した認知症治療も含まれる「音波を利用した先端医療の開発」。まずは専門である狭心症の治療に音波を利用することから始め、現在は認知症へと対象を広げている。このテーマも既に、取り組み開始から約20年が過ぎた。

 3つのテーマは全てつながっており、一本の大木のような太い幹を形成しているという。

「私が少し誇れるとしたら、ぶれることなく、一貫した研究テーマに取り組んできたことです。結果として、やってきたことにはそれぞれに相関があり、1+1+1が10ぐらいになっていると感じています」

患者さんから教わり
天に見守られている

 下川先生には、忘れられない患者がいる。