日本企業が今回の受賞研究を取り入れる意義
――SDGsをお題目で終わらせないために

 ノーベル経済学賞がデュフロ氏らの研究に与えられた意義は、援助業界だけではなく、実は日本企業に対しても大いにある。たとえば、賛同する日本企業もいよいよ多くなってきた、持続可能な開発目標(以下SDGs)。2015年に国連で採択されたSDGsにより、企業は社会インパクトをビジネスに統合することが必要となった。そして、社会インパクトを発信するということと、今回のノーベル経済学賞を受賞した研究には大いに関連性がある。

 たとえば、ある企業の製品が子どもの下痢の削減に貢献していると訴求したい場合を考えてみよう。これまでの援助の世界と同様、エビデンスに対する要求度がそれほど高くない場合は、お母さんからの「製品のおかげで子どもの下痢が減りました」というコメントを報告するだけでよかったかもしれない。

 しかし、エビデンスに対するリテラシーが年々高まるこれからは、この製品が本当に下痢の削減に貢献しているということを、コントロール群も含めたデータを収集して発信していく必要が出てくるはずだ。たとえば製品を使っている子どもの手のひらの大腸菌が、この製品を使っていない子どもの手のひらに比べて、大幅に減少しているということをデータで示すことなどだ。こうした社会インパクトをエビデンスによって「見える化」することの重要性は、SDGsはもちろんだが、ESG経営や、インパクト投資においても同じだと言えるだろう。

 今回のノーベル経済学賞が契機となって、企業も、援助機関と同様、より精査したアプローチで実証実験のデータを収集し、エビデンスを収集、発信していく必要性はより高くなるだろう。そして、それは結果的にSDGsの達成を早めることになるはずだ。