コペルニクの新たなアプローチ(2)
「現場」でリーンな「実証実験」
2つめのきっかけは、今回ノーベル経済学賞を受賞したエステール・デュフロ氏とアビジット・バナジー氏の共著“Poor Economics”のデータ、エビデンスを重視したアプローチに大いに感銘を受けたことだ。結果、コペルニクでもコントロール群のデータを収集をするなど、ランダム化比較実験の要素を取り入れていった。さらに、ある多国籍企業とデザインファームのIDEOと共同で行ったプロジェクトでは、インドネシアのデング熱・マラリアを予防するための製品の実証実験を行ったが、その時に取り入れたラピッド・プロトタイピングのアプローチにも強い手応えを感じていた。
これらの学びに基づいて、どうしたら支援のアプローチが模倣され、広がっていくのかを考えるようになった結果、途上国の「現場」で「実証実験」を行い、どういった介入で課題を解決できるのかを理解し、その結果を積極的に他の団体と共有してくことがコペルニクの方向性だと確信した。ただ、リソースの制約など、途上国支援のジレンマを肌感覚で理解している私たちは、いかにリーンな実証実験ができるかに注目し、小規模で、短期間に「現場」で行う「実証実験」を目指すことにした。
新たな方向性を設定して以来、今までに30以上の小・中規模の実証実験を行ってきた。たとえば、インドネシア東部の農村部で栽培されている穀物、ソルガムキビが、収穫後、コクゾウムシに食べられて価値が下落しているという課題に対して、藻類の一種であるオーガニックの珪藻土を保存の袋に混ぜるという介入を行い、珪藻土を入れない伝統的な保存法と、コクゾウムシの数を比較した。結果、珪藻土を追加した保存法では、伝統的な保存法に比べて、コクゾウムシが90%以上減少していた。
別の例としては、今年行った太陽熱で収穫物を乾燥させるソーラードライヤーのプロジェクトがある。カカオを乾燥させるため、太陽熱を囲い込む簡単な仕組みを作り、伝統的な乾燥方法と、カカオの乾燥速度、カカオの質の比較を行った。結果として、乾燥速度は2割早くなり、また第三者機関によるカカオの質の調査では、コントロール群に比べて質が上がっているという結果が出た。
また、こうしたコペルニクの新たなアプローチは、国際会議でも積極的に共有している。2017年に南アフリカ共和国で行われたGlobal Evidence Summitという会議でコペルニクのリーンな実証実験について発表[7]すると、「ランダム化比較実験の弱点をうまく補完するアプローチだ」というコメントをいただいた。
実は、このような活動もあってか、今回ノーベル経済学賞を受賞したデュフロ氏とバナジー氏が中心となって始まった前出のMITのJPALから声がかかり、インドネシアの農村部で、零細農民の収入が減少する時期の収入を補填するための介入に関し、ランダム化比較実験のお手伝いをすることとなった[8]。このプロジェクトはコペルニクが新しい方向性で打ち出したリーンな実証実験よりも重めのデータ収集・分析を必要としたが、非常に多くのことを学ばせていただいた。
今コペルニクでは、これまで行ってきた30を超える実証実験の結果を、他の機関のプロジェクトで採用してもらうとともに、現場でのリーンな実証実験のアプローチそのものを、より多くの援助機関で取り入れてもらうことを目指している。その結果、援助という大きな産業の仕組みがより効率化し、途上国の課題がより効率的に解決できるようになればと考えている。
[7]https://www.globalevidencesummit.org/abstracts/lean-experiments-filling-evidence-gap
[8]https://www.evidenceaction.org/no-lean-season-indonesia/