大手町フィナンシャルシティ店は、土日はもともと休み。平日の既存顧客に対して認知を徹底したことで、完全キャッシュレス化への移行後も、客数は横ばいで推移した。キャッシュレス決済のほうが、手持ちの現金を気にしなくていいため、現金払いより客単価が高くなる傾向があったという。

 この客単価の上昇が、結果として増収増益につながったのだ。「お店が好きであれば、継続して来店してもらえる。ファンを徹底的に囲い込んだ」と橋本部長は成功の秘訣を明かす。

 一方、プロント側は売り上げに対して話が及ぶと険しい表情を見せ、言及を避けた。実態は明らかにされなかったが「計画に対して売り上げが厳しく、課題感しかないはず」と業界関係者はプロントの苦悩を代弁する。

 PRONTO二重橋スクエア店は、昨年11月のオープン当初からの完全キャッシュレスで注目を集めた。このため店舗にとって全てが新規の顧客で、既存顧客は存在しなかった。平日はビルインのため入居するビジネスパーソンが多く利用するものの、皇居が近い立地ということもあり、土日は“一見さん”の高齢者が多い。

 キャッシュレスに馴染みが浅い層も店舗の前を通りかかり、「現金は使えないのか」という声も多数あったという。このような微妙なミスマッチが、上島珈琲店との明暗を分けたと推測される。

 顧客の取り込みができずに、店舗運営が厳しい例は他にもある。

 大手外食チェーンのロイヤルが運営する「大江戸てんや浅草雷門店」だ。この店舗は昨年10月に完全キャッシュレス店舗としてリニューアルオープンするまで、「てんや浅草雷門店」として営業を行っていた。完全キャッシュレスに踏み切るにあたり、店名に加えて、外装や商品を大きく変更した。

「この店舗はもともと顧客の9割がインバウンドだったが、(リニューアル後は)5割に下がってしまった。外国人は『てんや』を探して来ていたが、看板などを独自に変えたため、見つけにくくなったのではないか」とロイヤルの担当者は分析する。

 現状では売り上げが低迷していても、キャッシュレス化は大きな潮流だ。苦境に立たされたプロントの二重橋スクエア店では、1時間980円(税別)でワインの飲み放題や、ポイントカードで全品10%オフなどの施策を通して、既存顧客の獲得に懸命だ。

 キャッシュレス化の効率面ばかりに目を向けるのではなく、「既存顧客の取り込み」 という王道を模索し続けることが成功への早道なのだろう。