視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のシニア・エディターである浅羽登志也氏がベンチャー起業やその後の経営者としての経験などからレビューします。
キャッシュレス化で
リアル店舗での買い物も丸裸に
何か商品を買おうと思った時に、まずはネットで検索するのが習慣になっている人が、最近は多いのではないだろうか。
かく言う私もそうだ。先日も、ある商品を買ってみようと思い立ち、グーグルの検索窓に商品名を打ち込んだ。そして、その商品を扱っている複数のネットショップを閲覧し、価格を比較した。結局、その時は購入には至らなかった。
ところが、しばらくしてフェイスブックを眺めていたら、私のタイムラインに、その商品や関連商品に関する広告がひんぱんに表示されるようになった。
きっと多くの人が、同じような経験をしているはずだ。
私の場合、表示された広告は楽天市場が出広したものだった。確かに閲覧したサイトの中に楽天市場もあった。だが、楽天グループのサイトに広告が表示されるのは、まだわかる。だが、私が見ているのはフェイスブックのタイムラインだ。つまりこれは、少なくとも閲覧履歴という個人情報が、楽天とフェイスブックの2企業間で共有されていることを意味している。
私自身は、こうした広告を「便利」と感じる方だ。インターネットによる生活の利便性向上の1つだと思うからだ。しかし、個人情報が、自分の関知しないところで勝手に共有されている事実に気味の悪さを感じる人もいるに違いない。
例えば、これがリアルな生活の場面にまで広がったらどうだろう。デパートなどの実店舗で、ネットで検索や閲覧をせずに購入した商品の広告が、SNSの画面にタイミングよく表示されたら、さすがの私でもうす気味悪いと感じるかもしれない。日常の行動がすべて監視されているような気がするからだ。
いま日本政府は、経済成長のエンジンの1つとして「キャッシュレス化」の方針を掲げている。実は、このキャッシュレス化が、上記の「監視されているかのような気味の悪さ」を現実にしそうなのだ。
リアル店舗で現金を使う分には、店員に話したり、会員登録などをしたりしない限り、名前や住所、連絡先、これまでの購入履歴といった個人情報が「売る側」に渡ることは、ほとんどない。しかし、キャッシュレス決済の場合、金融口座やクレジットカードに登録してある個人情報がオンラインで決済業者や店舗に流れる。
つまりキャッシュレス化が進めば進むほど、多くの人の日常的な購買行動がネットに流れ、データ化される。果たして、これを「便利」の一言で片付けてよいものだろうか。