弁護団によると、西山さんから自供を引き出したのは、威圧感ある怖さと優しさを使い分ける巧妙な刑事のトークだった。

 当時30代だった男性刑事は呼吸器が外れたことを知らせるアラームが鳴ったかどうか執拗(しつよう)に尋ね「なめたまねしたら痛い目に遭うで」。机を蹴り、睨(にら)みつけた。

 アラームが鳴ったと認めると別人のように優しくなり、親身に話を聞いてくれた。近所でも「優秀」といわれた兄と比べられ、コンプレックスもあった。「うん、うん」と自分の話を聞いてくれる刑事に、好意を抱いてしまった。

「逃げるな。否認したら裁判官の心証が悪くなる」「弁護士は信用するな」

 刑事の言葉を信じた西山さん。公判での「やっていない」という訴えは、判事の耳に届かなかった。

 服役後、西山さんは精神科医に「人に迎合しやすい傾向があり、軽度の知的障害と発達障害がある」と診断されていた。

 実は捜査や公判の段階で、検察や裁判所が「違和感」に気付く局面はあった。

 アラームが同僚に気付かれないよう1分間数え、消音ボタンを押したという供述調書だ。

 弁護団によると、西山さんは「私は20秒しか数えられない。1分数えたとは言っていない」と主張。大阪高裁決定もこの供述調書について「誘導された疑いがある」と指摘していた。

 この事件を巡っては、弁護団が「違法な捜査があった。自白に至った経緯を明らかにしたい」として捜査段階の供述調書など約350点の証拠を新たに開示請求した。

 おそらく、見るに堪えないお粗末で杜撰(ずさん)な調書が披露されるだろう。

 早ければ年内にも「無罪」が言い渡されるが、西山さんが謳歌(おうか)すべきだった20~30代の青春は戻らない。

 その原因を作った警察や検察、各裁判所の関係者は誰も謝罪せず、責任を問われることもない。