今年(2019年)3月、名古屋で5年以上、娘が実父から性的虐待を受けていた事件を含めて、4件の性暴力被害に関する訴訟で無罪判決が出た。これがきっかけとなり、弁護士であり、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ理事で事務局長の伊藤和子さんは新著『なぜ、それが無罪なのか!?』を執筆したという。伊藤さんが書籍で社会に訴えたかった「日本の司法の不備と解決策」「性被害を受けたときに知っておきたいこと」を話してもらった。(医療ジャーナリスト 福原麻希)
公務執行妨害より軽い
性被害での「暴行」のレベル
――4件の無罪判決が出たとき、「日本の司法はあまりにも性被害を軽視している」と世論は怒りで渦巻きました。有罪へのハードルが高いのは、日本の性犯罪の処罰に関する規定にどんな不備があるからでしょうか。
2017年、明治時代から110年間続いてきた刑法性犯罪規定が改正されました。これは時代の変化を受け被害者の声を考慮して改正されたものです。例えば、被害者に男性が含まれるようになり、さらに、処罰行為の範囲が肛門・口腔性交にまで広がりました(※)。
※このほかにも以下の点が改正されている。
・「強制性交等罪」の法定刑の下限が引き上げられ5年になったこと
・「親告罪(被害者が告訴の手続きをする必要性)」が必要なくなったこと
・親などの監護者が立場を利用して18歳未満の子どもとの性交やわいせつ行為におよんだ場合は暴行や脅迫がなくても性犯罪が成立すること(監護者性交等罪)