先日発売されるや、Amazon1位(ビジネスとIT/モバイル)を獲得するなど大きな話題を呼んでいる『TikTok 最強のSNSは中国から生まれる』
この連載では同書より、「TikTokが世界最強のSNSとなる5つの理由」として、
1.「テキスト・画像から動画へ」という長期トレンド
2.「検索からレコメンドへ」という長期トレンド
3.プラットフォームとして確固とした強みがある

という3点を解説してきました。
今回は残りの2つの理由を紐解いていきましょう。

母体となる運営会社・バイトダンスは世界一のユニコーン企業

 「TikTokが世界最強のSNSにもなり得る理由」の4つ目は、運営母体であるバイトダンスの、企業としての実力の高さです。

 バイトダンスは2018年に時価総額8兆円を突破し、当時トップに位置していたUberを超え、世界一のユニコーンになりました。同社はスタートアップやテクノロジー企業、ベンチャーキャピタルに関する独自の情報を提供する機関「CB Insights」が選ぶ「AI分野のトップ100社」や、米国ビジネス誌『Fast Company』が選ぶ「最もイノベーティブな企業リスト」にも選出されています。また、従業員数はAIエンジニアを含めて3万人以上となっており、平均年齢が20代と若いのが特徴です。

 同社が2016年に立ち上げたAIラボの主任を務めるのは、マイクロソフト・リサーチ・アジアで重役だったWei-Ying Ma氏。2018年8月には米国のインテルと共同で、AI活用のリサーチを進めていくことをアナウンスしました。

 知る限りでは、バイトダンスは同ラボを設立する以前の2012年頃から、データサイエンスの精鋭を集めながら、ビッグデータや機械学習の領域に注力していました。アリババやテンセントがこの分野を重点化し始めたのが2014年頃からであることを考えると、バイトダンスがいち早く行動し、先行者優位を築いていたことがわかります。加えて、AIにおける技術革新の中核である機械学習分野の1点に注力してきたことも現在の強みにつながっています。

 また、中国では国を挙げてAI分野に舵を切っているので、政府からの後押しも強くあります。中国という国で政府からバックアップを受けることの意味は、米国や日本におけるそれよりもはるかに大きいのです。

 このようにバイトダンスは、資金力・技術力・政治力のどのアングルから捉えても申し分のない、世界最強のAI企業になりつつあるのです。

 同社については未上場ということもあり、アリババやテンセント、バイドゥなどと比べると、中国国内においても公開されている情報が格段に少ない状況です(一説には、CEOがマスコミ嫌いとも言われています)。しかし、Douyin(TikTok)の誕生の経緯からは、その一面をうかがい知ることができます。これについては、『TikTok 最強のSNSは中国から生まれる』で詳しく解説しているので、ぜひご参照ください。

圧倒的にみやすい「短尺+レコメンド」

 ここまでTikTokが世界最強のSNSになる理由として、長期的なトレンドからの視点とプラットフォームとしての強さ、運営企業であるバイトダンスの実力を解説してきました。最後のポイントとして、TikTokのSNSとしての長所を「設計・運営」面からみていきましょう。

Photo: Adobe Stock

 TikTokをみはじめると、まずその圧倒的な「みやすさ」が印象に残るはずです。その最大の理由は動画の長さにあります。YouTubeの動画の最適とされる長さは5~8分であることに対し、TikTokはわずか15秒~1分です。

 TikTokでは、ある程度のファンを獲得したユーザーにのみ、1分以上の動画投稿を許可する仕組みをとっています。それによって、1分以上の動画はコンテンツの質が担保されたものだけに限定されることになります。結果、気軽にみられる15秒の動画と、クオリティが高い1分の動画だけがプラットフォームにある状態となります。それに加えて、すでに説明したレコメンド機能がありますから、視聴者にとっては気軽にみやすく、ハズレを引いて失敗する確率も少ない状態になるのです。

投稿のハードルの低さ

 コンテンツが15秒という短い動画に決められているということは、投稿者にとってはアップするハードルが低いことも意味します。

 また、TikTokで初期に流行したリップシンクに代表されるように、既存のコンテンツを模倣することが歓迎される、ショートムービーならではの文化も重要なポイントです。すでにある動画を少しアレンジして真似すれば、投稿するネタに困ることはありません。口パクをすればよいだけなので、基本的に自分の身体と顔さえあればいい。しかもスマホで簡単に映像編集もできます。これも中高生の人気を獲得した理由の1つといえるでしょう。

 Instagramをみてみれば、ストーリー以外の、投稿されているコンテンツのほとんどが何らかの消費を伴った趣味情報です。旅行に行った際の綺麗な風景や、巷で流行っているパンケーキ屋、あるいは買ったばかりのブランド品などの写真が並びます。こうした「映える」コンテンツが集まることによる、非日常性が求められる空気感がプラットフォームに漂っています。

 一方TikTokでは、「◯◯へ行こう!」「◯◯を消費しよう!」といった消費情報、趣味情報が前提とされていません。そのために心理的な投稿のハードルが低いのです。撮影する場所は自宅でもいいし、教室でもいい。音楽もフォーマットも用意されているので、極端な話、自分でネタを考える必要すらありません。

 それでいて、SNOWのような加工フィルターやクールな音楽のおかげで、誰でもかわいく自分を映すことができる。コンテンツに音楽が乗っかっていることは意外と重要で、音楽がかかるだけで、一気にコンテンツがそれっぽくみえる作用が働きます。音楽に合わせるからこそ、視聴者は感情移入してしまいますし、動画がかわいくみえます。

 以上の要素からもたらされる投稿ハードルの低さが、経済的に余裕のない若者たちの間で爆発的にTikTokが支持を集めた要因なのです。

承認欲求を堂々と満たせる

 SNSが一般的になった現代においては、承認欲求をストレートに追求できるプラットフォームであることも重要なポイントです。たとえば、TikTokには「#TikTokで有名になりたい」や「#広告で有名になりたい」といったハッシュタグがあり、堂々と前向きに承認欲求を追求できる空気感が漂っています。
 特に日本では、世代によってはまだまだ自分の顔を出すことを躊躇したり、恥ずかしさを覚える人が少なくありません。だからこそ、「TikTokはそういう場所だよね」と素直に自分を出して語れる空気感は、無視できないプラスのポイントになっています。

SNS疲れがない

 「SNS疲れ」という言葉が生まれたように、顔見知り同士でつながるSNSに疲弊する人が増えつつあるといわれています。FacebookやInstagramでは、知人友人からの「いいね!」の数が可視化されるため、周りの目が気になり、息苦しさを覚えてしまうのです。それにより、知り合いと密につながるSNSよりも、緩やかにマスとつながるSNSを好む人が増えてきたのです。
 また逆に、少数の知人とだけつながりたいという人も増えているはずです。SNSに求めることが、個人ごとに明確に分かれてきたといえるのでしょう。

 TikTokでは、友達とつながったとしても、自分がアップした動画が必ず友達のところにいく(レコメンドされる)わけではありません。知り合い同士でコンテンツをみせ合うよりも、知らない人同士で緩やかにつながり、評価し合う傾向が強い。そうしたリアルとの距離感、友達の目線や評価を気にしなくていいという点が、現代社会の空気感にハマりつつあります。

ユーザーのエンゲージメントが高くなる構造

 SNSにおいて「いいね」がつきやすくフォロワー数が伸びやすいことを、「エンゲージメントが高い」といいます。TikTokは、他のSNSと比較してもエンゲージメントが高く保たれやすい設計になっています。

 その理由は、やはりレコメンド精度の高さにあります。日本のTikTokには現在、2つの種類のタイムラインがあります(中国版であるDouyinでは3種類)。1つのタイムラインは自分が上げた動画で、もう1つは自分が「いいね!」をつけた他の人の動画です。

 後者のタイムライン上では、スワイプをすることで次から次へと動画が出てきます。しかも、フォローをしていない人の動画もバンバンさしこまれてくるため、ユーザーは気に入ったコンテンツを、「この動画、面白い!」「この人の動画は見逃せない!」と、ブックマーク感覚でどんどん「いいね!」を押していく必要があるのです。

 検索型のプラットフォームではないからこそ、エンゲージメントが高まりやすい構造になっているといえるでしょう。

 一方、YouTubeの場合、チャンネル登録をしてもらわない限り、動画をみてもらえる可能性は低い構造になっています。アルゴリズムでレコメンド機能が強化されているとはいえ、もともとは検索型のプラットフォーム設計であるため、たとえば、ニッチなジャンルであればあるほど、検索をしてもらわない限り自分のコンテンツにたどり着いてもらえないのです。

 繰り返しになりますが、TikTokは完全レコメンド型なので、プラットフォーム側がある意味無理やり、動画をみせることができます。そして先ほど説明したように、エンゲージメントが高く保たれやすい設計にもなっているため、TikTokを使い始めたばかりの人でも、はじめからマスにコンテンツを広めやすいようになっているのです。

インフルエンサーとの強い関係性作り

 最後に、バイトダンスの特徴的な運営方針を紹介しましょう。
 バイトダンスは社として、インフルエンサー(コンテンツクリエイター)との関係構築に相当な力を入れています。先ほども触れたように、中国ではショートムービー業界に無数の企業が存在しているため、コンテンツクリエイターの取り合いが起きています。いかに魅力的なコンテンツを提供してくれる作り手を確保できるかが、プラットフォームからユーザーを逃さない鍵になるからです。

 そこで、バイトダンスは中国において2017年11月に、コンテンツ発信者を招いた大型のパーティーを開催。コンテンツ制作者の支援に力を入れると宣言しました。インフルエンサーがしっかりと収益を上げられる体制を整え、フォロワー(ファン)の増加やコンテンツ作成のサポートの予算として3億ドルを投じることを発表したのです。
 加えて、「2018年末までに100万人のフォロワーを抱えるインフルエンサーを1000人生み出す」と目標を掲げ、今後も会社の方針としてインフルエンサーを支援し、強い連携をとっていく姿勢を表明しました。

 日本でも2019年に入り、同様の動きをみせ始めています。1月末に、5億円の予算を投じるクリエイター育成プログラムの開始を発表しました。ファッション、コスメ、グルメ、ゲーム、旅行、二次元など20カテゴリーのクリエイターを1000人公募し、フォロワーが1万人になるまで育成・サポートするという内容です。

 2月には、大物YouTuberであるHIKAKINさんらをゲストに招き、TikTokのクリエイターを400人集めた「TikTok CREATOR’S LAB. 2019」を開催。この場では、西田真樹氏(バイトダンス社日本法人副社長)からクリエイター向け収益化システムの実装が予告されました。

 強調したいのは、バイトダンスは自分たちのプラットフォームを自由に開放するよりも、インフルエンサーと関係を構築しながら、主体的に管理していく姿勢が明確だということです。先ほども紹介した2月におこなわれたイベントに加え、3月には「TikTokオーディション2019」を開催。インフルエンサーへ投資し、モチベートしながらサポートしていこうとしています。

 近年になり、YouTubeも同様の動きをみせつつありますが、立ち上がってからまだ若いプラットフォームであるTikTokが初期からこうした動きをしていることに注目すべきでしょう。いかに彼らがクリエイターの育成に本気かが伝わってきます。

 ちなみに、インフルエンサーとの連携を重視するバイトダンスは、インフルエンサーと企業の直接契約を禁じています。たとえば化粧品会社から商品紹介の依頼がきた際、インフルエンサーはTikTokが公認しているマルチチャンネルネットワーク(MCN)に話を通すか、自らバイトダンス社に申告しなければなりません。

 ショートムービーの業界外にはなりますが、Netflixもバイトダンスと同様、相当額の予算を割きながら手厚くクリエイターをサポートしているそうです。対照的に、YouTubeはクリエイターと距離を置き、プラットフォームに徹している。この姿勢の違いが、両社の成長にどのように影響を与えるのか、注目したいところです。