ECBはどう変わるのか、ラガルド新総裁をめぐる3つの論点フランス大統領選で候補者として名前が取りざたされたこともあるラガルド氏(写真左)。ドラギ前総裁(右)の時代に深まったECBの内部分裂を修復できるのか?Photo: REUTERS/AFLO

 11月1日、フランス人のクリスティーヌ・ラガルド元国際通貨基金(IMF)専務理事が欧州中央銀行(ECB)の新総裁に就任した。ECBとしては史上初の女性総裁である。

 これまでも欧州で高級ポストが空くたびにラガルド氏の名は挙がっており、欧州委員長やフランス大統領の候補として浮上したこともある。「ラガルド説」はビッグネームゆえにとりあえず挙がってくる定番の噂(うわさ)だったが、ついに現実になったというところだろう。

 本稿ではラガルド総裁就任の節目を迎え、今後ECBに絡んで話題となりそうな論点を3つ挙げておきたい。大別すれば、(1)ECBの目標設定見直し、(2)次の一手は何か、(3)内部分裂を修復できるか、である。

 ラガルド新総裁に託されたECB目標設定見直しの大事業

 まず、これは地味ながら非常に重要な論点だ。恐らくラガルド体制が最初に着手する大事業になると考えられる。

 現在のECBの物価安定の定義は「中期的に2%未満であるがその近辺(below, but close to, 2% over the medium term)」であり、このフレーズは市場参加者の中では比較的に有名なものとして知られている。これはいろいろと解釈のあるフレーズだが、「2%未満であるがその近辺」と2%よりもやや控えめな表現にしていることがポイントだ。

 この背景にはあくまで「物価は上昇するもの」という警戒感がある。金融危機前の世界ではこうした問題意識がマッチする状況が確かにあった。だが、周知の通り、今や先進国を中心として「物価はなかなか上昇しないもの」という問題意識に切り替わりつつある。物価を「2%未満であるがその近辺」に抑制しようというような表現は時代に即しているとは言い難いだろう。