ラガルド新ECB総裁とドラギ総裁ラガルドECB新総裁は、ドラギ前総裁が拡大した金融政策の検証・修正において、調整力を発揮できるかPhoto:pool//gettyimages

ラガルド新ECB総裁にとって、ドラギ総裁が拡大した金融政策を、必要とあれば大胆に修正していくことが試金石となる。ラガルド氏の持ち前の調整力が期待される場面となるだろう。総裁の交代で、ECBの金融政策はどう変わるのだろうか。(ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究理事 伊藤さゆり)

就任後の金融政策は当面現状維持か
かつてのドラギ総裁とは対照的

 11月1日、クリスティーヌ・ラガルド氏が4代目のECB(欧州中央銀行)総裁に就任する。

 母国フランスで対外貿易担当相、経済・財政相などを務めた後、女性として初のIMF(国際通貨基金)の専務理事を務めたラガルド氏。国際金融界での知名度は抜群だが、専門は法律で、中央銀行での職務の経験がないことを危ぶむ声もある。

 総裁の交代で、ECBの金融政策はどう変わるのだろうか。

 金融政策は少なくとも当面、現状維持となる見通しだ。

 ラガルド総裁体制のスタートは、就任早々、前任のトリシェ総裁(当時)の利上げ路線の軌道修正から始まったドラギ総裁体制とは、対照的なものとなるだろう。

 ドラギ総裁が率いた8年間には、2012年7月にロンドンで行ったスピーチで述べた「ECBのマンデートの範囲内で、ユーロ圏を守るためにできることは何でもやる用意がある」という「約束」が象徴するように、大胆で新しい政策手段が次々と打ち出された。

 ユーロ危機の地域的な伝播と経済・金融・財政悪化のスパイラルに対しては、ゼロ金利までの利下げ、11年12月に実施された異例の期間となる3年物の長期資金供給、さらにロンドンでのスピーチ後の同年9月に導入したESM(欧州安定メカニズム)に支援を要請した国を金額無制限で支援する「OMT」(新たな国債買い入れプログラム)といった対策が打たれた。

 ユーロ危機の沈静化後の「日本型デフレリスク」との戦いでは、マイナス金利政策(14年6月~)、4年物ターゲット型資金供給(14年9月~)、国債等の資産買い入れによる量的緩和(15年3月~)へと政策手段を広げた。