
唐鎌大輔
日本銀行が発表した資金循環統計によると、家計の外貨建て金融資産の比率が着実に上昇している。実質的に10%時代も視野に入りつつある。若年層を中心にNISAによる投資活動も活発化し、「貯蓄から投資」への動きが加速している。その背景には日本経済への諦観がある。

2025年6月の日本銀行の政策決定会合では、国債買い入れ減額ペースの緩和が決定された。債券市場の混乱を抑える「優しさ」が表れた形だが、予見可能性や量的引き締め(QT)の信認に与える影響は小さくない。日銀は、金利上昇と円安の板挟みに立たされている。

日本の超長期金利が上昇する中で、為替市場では「円金利上昇による円買い」という見方が散見される。しかし、こうした解釈は政府債務への懸念や対外経済構造の変容を無視した短絡的な見方である。金利上昇の真因とそれが円売り要因となる背景を構造的に読み解く。

トランプ関税の目的は貿易赤字の縮小にある。そのために、ドル安も志向している。ただ、過去を振り返るとドル安は早期の貿易収支改善には結び付いていない。いわゆるJカーブ効果が先んじて発現するためである。

2024年の経常収支黒字は過去最大となったが、サービス収支のうちのデジタル収支の赤字、旅行収支の黒字も過去最大となった。今後を見据えると、デジタル収支の赤字はさらに拡大し、旅行収支の黒字は頭打ちになる公算が大きい。見えてくるのはサービス収支の赤字10兆円超えの常態化である。

ユーロ圏の景気減速は明らかであり、ECBは利下げを継続中だ。景況感格差、金利格差から対ドルでのユーロ安が進行しており、インフレ抑制の観点からさらなる利下げの制約要因となりつつある。景気動向に合わせて利下げを継続すれば1ユーロ=1ドル、いわゆるパリティ割れは確実だ。

12月19日、日本銀行は金融政策の現状維持を決め、一時1ドル157円台まで円安が進んだ。ただ、今後の政策金利の方向性は上向きである。一方、スイス国立銀行は12日に政策金利の0.5%引き下げを決定し、両者の政策金利の水準はほぼ変わらなくなった。だが、基調としての円安スイスフラン高は変わらない。この差をもたらすのは日本とスイスの外貨を稼ぐ力の差である。

2024年7~9月期のGDP(国内総生産)の成長率は、市場予想を上回った。個人消費が思いのほか堅調だったことが寄与している。しかし、定額減税などの特殊要因に支えられた部分が大きく、景気の基調は強くない。景気面からは日本銀行の利上げは正当化されないとみるが、12月の利上げの可能性は高いとみている。その背景を解説する。

11月のFOMC(米連邦公開市場委員会)の動向に注目が集まっているが、為替市場の予測にあたって重要なのは1年後の金利動向である。1年後には米国の利下げの終点が争点になっている可能性が高い。その時点では、再び円安へと転じるとみる。円高局面は短命に終わりそうだ。

米国の利下げを先取りする形で、ドル円は139円台をつけた。円高の要因を日米金利差とする解説が流布しているが、背景には貿易収支の赤字縮小を主因とする需給の改善もある。一方、依然デジタル赤字も拡大している。こうした構造を熟慮した上で今後の日本経済の在り方を考えてほしい。

セブン&アイ・ホールディングスへのカナダのコンビニエンスストア大手による企業買収案件が明らかになった。日本の対内直接投資残高の対GDP(国内総生産)比率は、北朝鮮よりも低い。円安の今、企業買収による直接投資というカードはその重要性が注目されているだけに、実現可否にかかわらず本件の行方が意味するところは大きい。

日本銀行から資金循環統計が発表された。家計金融資産に占める株式の比率は過去最高となった。筆者試算の外貨比率も過去最高だ。家計はリスク性資産、外貨建て資産への投資に目覚めたようだ。ただ、このままの傾向が続くことによる悪影響について考え始めた方がいいだろう。

円安を活用する対策として対内直接投資増大が唱えられている。雇用創出効果や輸出増も望める。日本は前向きに進めるべきである。しかし、いいことばかりではない。対内直接投資大国であるアイルランドの現状からその負の側面を検証する。

円安進行に対して政府・日銀による介入観測が取りざたされ、物価への波及を防ぐために日本銀行の追加利上げへの期待も高まっている。しかし、これらは即効性こそ認められても持続性には乏しいだろう。他に手はないのか。同じく時間稼ぎの域は出ないが、レパトリ減税とNISA国内投資枠といった一手を検証する。

日本のデジタル収支の赤字が議論されることが増えてきた。GAFAが属する米国の黒字は分かるが、それ以外の国は日本同様赤字なのではないかと疑問に思う向きも少なくないだろう。だが、他の主要国と比べても日本の赤字幅は突出しているというのが現状である。

年初からの株高で「日本を見る目が変わっている」論が幅を利かせている。日本経済、日本企業の変革が期待されているというわけである。しかし、株高の実態は、円安から波及してきたインフレと輸出企業の業績向上に過ぎない。実質成長率は低迷している。これは、日本が「先進国」ではなく「中進国」であると、見る目が変わってきている証左ではないだろうか。

2024年に入っても円安に歯止めがかからない。23年の経常収支の黒字は22年に比べ大幅に増加したが、日本に円転され還流するかを基準にしたキャッシュフローベースの収支では依然赤字が続いている。日本は“仮面の黒字国、仮面の債権国”にすぎない。米国のプラットフォーマーへの依存をやめられない以上、デジタル収支の赤字は拡大し、円安圧力となり続ける。

継続するドル高円安の要因として日米金利差の拡大、高止まりを挙げる論調は根強い。その影響は確かに強いが、サービス収支の赤字増大による資金流出も遠因である。中でも米巨大IT企業へのプラットフォームサービスへの対価支払いなどによる「デジタル赤字」は、8年間で倍増した。

9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では利上げが見送られた。しかし、これは利上げ停止を意味しない。米景気は予想を上回る強さを見せており、利下げは早くても24年6月以降だろう。その後円高に反転しても1ドル=135~140円止まりだろう。

岸田政権は「資産運用立国」の旗を振っている。家計に現預金以外での資産を保有してもらおうということである。実際、円安と海外物価高の両面でそのデメリットを家計は認識し始めている。そのデメリットを補うためにこそ家計は円建ての現預金以外、特に外貨建ての資産を持つべきである。
