結局、日韓双方は、徴用工問題を解決する具体的な合意が得られなかったため、安倍首相と李首相の会談で、文大統領と安倍首相の首脳会談の開催に合意することを事前に断念していた。

元徴用工問題では
日本を刺激する発言控える

 それでも会談が予定の倍の時間になったのは、韓国側の“抑制”があったことがある。

「安倍首相が腹を立てそうな発言をしなかったから、自然な形で会談が進んだ。それが10分の予定時間が21分になった理由」と、日韓関係筋の1人は語る。

 2022年の次期大統領選に出馬をもくろんでいるとされる李首相は老獪だった。

 会談冒頭、李首相は、天皇即位に対する祝賀や台風19号被害に対するお見舞いを述べた。

 その後、徴用工問題に話を移したが、日本企業に元徴用工らへの損害賠償を命じた韓国大法院(最高裁)判決について、「韓国はこれまでも韓日請求権協定を守ってきたし、これからも守っていく」などと述べ、日本側が不快に感じる発言を控えた。

 もっぱら問題解決に向けて協議を続ける意欲を強調し、日本側が激怒してきた「韓国政府は司法判断に関与できない」「損害賠償の対象は、日本企業の不法行為に対する慰謝料」といった発言はしなかった。

 さらには北朝鮮問題で、日米韓3ヵ国が協力していくことが重要だという点も強調したという。

 一方で安倍首相は徴用工問題について、外交当局で引き続き協議を続けることには同意したものの、「国と国との約束を守ってほしい」と、従来の姿勢を変えなかった。

 1965年の日韓請求権協定が、両国間の請求権の問題について「最終的、完全に解決された」と明記しており、日本政府や日本企業にいかなる負担を求めることもできないという点は、譲れない線であることを繰り返した。

 会談の最後にも、安倍首相は再び、「国と国との約束は守っていただきたい」と念を押した。

 李首相が「韓日双方が知恵を出していけば、乗り越えられない壁はないでしょう」と応え、会談は終わった。

 李首相は会談の終わりに、文大統領の親書を渡したが、安倍首相がその場で読むことはなかった。

 事前の外交当局の折衝の経緯を伝えられ、親書には日韓首脳会談の開催や懸案解決などのための具体的な提案が含まれていないことは、すでに頭の中に入っていたからだ。