欧州がまたもや市場の期待を裏切った。7月から稼働する予定だった新たな安全網、欧州安定メカニズム(ESM)がいまだ発足できずにいるのである。
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ESMは、暫定的な救済基金である欧州金融安定基金(EFSF)に代わる恒久的な制度だが、発足には出資比率で9割の国の批准が必要だ。ところが、出資比率の3割近くを占めるドイツが批准できないでいる。6月29日に議会承認まではこぎ着け、大統領の署名を待つばかりだったが、野党や学識経験者などが、他国を救うために税金を投入する権限は議会に与えられていないとして提訴。憲法裁判所が合憲か否か審議する事態となり、その発表は9月12日に持ち越された。
影響の大きさに鑑みて違憲判決が下される可能性は低いとみられているものの、ESM稼働は9月中旬となる見込みだ。それまで利用可能な安全網は、EFSFのみとなる。EFSFの融資可能額は、スペインの銀行への支援1000億ユーロを除くと約1500億ユーロ。スペインが銀行支援のみならず、財政支援を要する事態となった場合、今後1年間で必要な額は1350億ユーロ程度とみられており、ほぼ枯渇してしまう。
そもそも、ESMが発足したとしても、その規模は心もとない。ESMの融資可能額は各国による資本の払込額に連動するため、計画では2012年中で1000億ユーロ、14年で5000億ユーロである。国際通貨基金(IMF)による支援を合わせても、新規融資能力は7500億~1兆ユーロ程度だ。一方で、アイルランドとポルトガルに追加支援が必要となり、さらにもしスペイン、イタリアも全面的な支援が必要になれば、その額は3年間で1兆ユーロを超えると目される。
「欧州の債務危機を収束させるには、安全網の大幅な拡充が必須」(中空麻奈・BNPパリバ証券投資調査本部長)だ。市場を安心させるには、2兆~3兆ユーロの規模が必要というのが、多くの専門家の見方である。