ちなみにドクターヘリの現地滞在時間の全国平均は20分(2018年調査)、同センターは、半分以下を実現させていることになる。当然、予後・生存率も格段に向上した。これは単純にヘリや救急車を急がせるだけで成し得ることではない。

 ドクターヘリの診療患者数は2010年の1040人から2018年の1472人に。日本一の稼働率を毎年更新し続けている。小林先生がすご腕の救急医であることは間違いないが、真価の第一はむしろ、地域の救急医療の仕組みを大改革し、東京都と同じ広さの面積に、救急医療を提供する病院は1ヵ所しかないという厳しい状況にもかかわらず、「うちは日本一安心な地域」と住民が自慢できる体制を創り上げたことにある。

予測生存率50%未満の重傷者も
全国トップクラスの率で助けられる

 小林先生が赴任するまで、同地域の救急医療は悲惨な状態だった。

「以前も今も、この地域には、3次救急に対応できる規模の病院はここしかありません。小さい病院はたくさんあるけど、救急医も検査技師も常駐していないので、そこに運べば患者さんは亡くなってしまう。この豊岡病院にも救急科専門医はいなかったので、急いで搬送してもどうせ助からないと、救急救命士たちは大きなジレンマを抱えていました。センターの立ち上げ当初は、『ドクターヘリが導入されても、どうしようもない』という声も上がっていたようです」

 救急科専門医と一般の医師では、治療の仕方が全然違う。診療科に関係なく全身を診療し、特に重症の場合には救命救急処置、集中治療を行えることが、救急科専門医の一番の特徴だ。

「一般の先生方はつい、自分の専門分野ばかりに目が行く。例えば整形外科の先生であれば骨折から治療を開始し、生命にかかわる傷病を見逃したり、処置が遅れたりしてしまいがちです」

 小林先生はまず、病院自体の救急医療体制の整備と、救急救命士たちがストレスなく病院選定ができる体制の構築から着手した。

「うちは断らず、100%全部引き受けますから、みなさんは傷病者を1分1秒でも早く運んで来てください、仮に救急搬送するまでもない症例だったとしても、転院させるかどうかは、うちで判断します。現場は、傷病者に対して適切に観察と評価と処置をして、搬送してくれればいいというルールを、徹底させました。その上で、すべての案件を検証し、現場の要望も聞きながら、改善に取り組んできました」

 ヘリに医師が2人搭乗し、出動要請が重なった際には1人が途中で降りて現場へ向かう日本初の「ドロップシステム」、ヘリを要請すべきか否かを消防隊が素早く判断できるようキーワードを示し、1つでも当てはまれば迷わず要請することをルール化した「キーワード方式」などを考案し、導入したのも先生だ。