全員の目が中央に置かれた都市模型に注がれている。

 長谷川が模型について説明した。

 1時間ほどで、都市の機能、役割などについて話した後、何か質問は、という顔で若い官僚たちを見回した。

「これが新首都となる都市ですか」

「候補の一つです」

「しかし、あまりに簡素で平凡な都市です。首都はその国の顔です。もっと日本らしい首都のほうがいいのではないですか」

 聞いたことのある質問が上がった。

 賛同する囁きがそこかしこから聞こえてくる。やはり多くの者の目にはありふれた、印象のうすい都市なのだろう。

「では、きみは東京が日本らしい都市だというのかね」

 長谷川の問いに、質問者は答えに窮している。

「あなた、あの模型、見たことがあるんでしょ」

 優美子が森嶋に身体を寄せ、小声で問いかけてきた。

「ちらっと見ただけだ」

「首都としてもだけど、都市としてもインパクトがないわね。それが特徴といえばいえるんだけど」

「気にいらないのか」

「中央の建物が国会議事堂になるんでしょ。でも、デパートだって言われても納得するわ。あれを首都だと認める人がいると思うの。だったらよほど想像力が豊かな変人ね。外国の要人が来るのよ。日本人として誇れるものでなきゃならない」

「設計者の趣旨は、首都にこだわるなってことかもしれない。国の精神は国民各自の心にある。首都は出来る限りシンプルであるほうがいい」

 優美子は首都模型を見つめている。

「でも、道州制にはピッタリの都市ね。小さな政府。殿塚議員も知ってるんでしょうね」

 優美子が森嶋に視線を戻した。

 森嶋は答えなかった。

(つづく)

※本連載の内容は、すべてフィクションです。
※本連載は、毎週(月)(水)(金)に掲載いたします。