エアラインやホテルではすっかり当たり前になりつつある「ダイナミックプライシング」。法規制の問題などがあり、鉄道ではまだ導入されていないが、その可能性を探る動きは、既に始まっている。(鉄道アナリスト 西上いつき)

鉄道料金がホテルのように
繁忙期・閑散期で変わったら?

東海道新幹線の車両新幹線のような「ぜいたく品」といえる路線はダイナミックプライシングを比較的導入しやすい。一方、生活に密着している在来線は、基本的には不向きである Photo:PIXTA

 最近、「ダイナミックプライシング」という言葉を耳にする機会が多くなった。これは需要と供給によって価格を変動させる手法のことをいい、一見新しいものに見えなくもないが、実は古くから存在した。

 有名なところでいうとホテルの料金設定や旅行代金、生活に身近なところでは、スーパーの総菜が閉店間際に半額になるようなことも「ダイナミックプライシング」といえよう。

 このような一般的な手法が、なぜ改めて話題になっているかというと、それはAI(人工知能)による価格設定が行われるようになってきたからだ。ある有名ホテルチェーンは、支配人にそのホテルの料金設定を一任しており、支配人の裁量によってプライシングをしているという。もちろん、長年の経験と感覚により適切な料金設定ができるのであれば問題ないが、蓄積された過去のデータをもとに、AIで需要予測を割り出すことで自動的に、しかも素早く料金設定ができる、という話だ。

 こと鉄道業界においても、繁閑による混雑状況の変動は大きい。簡単な話で言えば、朝のラッシュのすし詰め状態で目的地に向かうのも、日中空席にゆったり座って読書をしながら向かうのも、同じ運賃である。帰省ラッシュや長期休暇の影響を如実に受ける新幹線は、繁忙期か閑散期かによって指定席料金が200円増減する。また、最近では「特別企画乗車券」という形で会員限定のエクスプレス予約により、多少のディスカウントをしたり、旅行プランによってお得な金額が設定されている。

 ただ、運賃・料金はあらかじめ設定されているので、繁忙期だからといって休日のホテルのように、みどりの窓口に行くと通常の3倍の金額になっている、というようなことはない。もし鉄道の運賃・料金に日々変動があると、どのような世の中になるのだろうか。

 今回、メトロエンジン(東京都港区)の小阪翔COOに話を聞いた。同社はもともと、宿泊事業を対象にプライシングのサービスを行ってきたが、昨年JR東日本のアクセラレータープログラムで最優秀賞を受賞、JR東のホテルだけではなく、新幹線の混雑状況予測も行う、人工知能によるダイナミックプライシング事業を主とする企業だ。ダイナミックプライシングの現状と課題に豊富な知見を持っている。
 
 鉄道の運賃・料金はあらかじめ決められたもので、特に運賃については各社キロ程により、事細かに定められている。つまり、運賃は需給の影響を受けず、東京~新大阪間を新幹線の普通指定席で移動すれば、いつも1万4000円程度だ。しかし、それが日々変化するとなれば、利用客は不便に感じるかもしれない。これは、ダイナミックプライシングの課題である。